ハンジ・フリックは、バルセロナに大差で勝つ方法を知っている。
2020年8月、チャンピオンズリーグ準々決勝でバルサが2-8の大敗を喫したとき、対戦相手のバイエルンのベンチに座っていた。このスコアラインは、リオネル・メッシ時代の終焉を象徴していた。以来、バルサは過去の栄光を求めての堂々巡りを繰り返し、ロナルド・クーマンやシャビといったレジェンドはその捨て石にされた。
2021年3月に会長に復任したジョアン・ラポルタはクーマンと出くわし、シャビをどう扱ったらいいのかついに理解することはなかった。ラポルタが望んでいたのは、2003年夏に第1次政権を発足させると同時に招聘したフランク・ライカールトのような、フレッシュで、自分主導で選んだ監督だ。
そしてその探し当てた人物がフリックだった。今後の焦点は言うまでもなくこのドイツ人指揮官がバルサで勝つ方法を知っているかどうかだ。
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ラポルタがモンジュイックでの苦難に苛まれる日々を乗り越えて、リニューアルしたカンプ・ノウで安住するためには、フリックの成功が不可欠だ。フリックは現在、賞賛よりも尊敬の対象になっている。
バイエルンで成し遂げた6冠という偉業が燦然とした輝きを放つ一方で、ドイツ代表の指揮官としては長続きしなかった。代理人がロベルト・レバンドフスキと同じピニ・ザハビであることも知られている。ラポルタの主導で招聘されたことを示すディテールだ。
フリックは、名前ではなく、メソッドを評価され抜擢を受けた。ヨハン・クライフのトータルフットボールの戦術の熱心な研究者であり、ジョゼップ・グアルディオラの崇拝者であり、バルサのスタイルからかけ離れた人物ではないことを強調する。
ここ何十年もの間のバルサを率いてきた歴代監督と異なるのは、内輪もめとは無縁で、伝統のDNAから解放されていることだ。バルサの顔になることの重荷を背負っていることは自覚しているが、DNAの継承者であることを自負することはない。バルサスタイルのイロハを語るよりも知ろうとする。非常にプロフェッショナルで尊敬に値する人物だ。
特筆に値するのは、フリックが示す共感の姿勢が、バルサの監督に求められる要求度の高さと矛盾した状況にはなっていない点だ。近年のバルサは、口先だけで中身が伴わないことが多かった。プレーの原理・原則を実行に移す際に、献身性もかみ砕いて説明しようとする姿勢もなかった。
決して、嘲笑の対象として使用されることが多い「ティキ・タカ」に頼って実現できることではない。バルセロニスモは、「走ることは臆病者の行為」や「ピッチに出て楽しんでこい」といった多くの表現を神格化しすぎてきた。言い訳や戦犯探しに時間をかけすぎてきた。
結果的に指導するという監督の仕事の本分を忘れ、勝利への欲求を活性化させることを蔑ろにし、グアルディオラが思い出させてくれた懸命に働くことを是とする文化を軽視するようになっていた。
就任後初の記者会見でのフリックは控えめで、当たり障りのない発言に終始した。それは黙々と仕事することをモットーとする彼ならではの儀式だったのかもしれない。
フリックがバルサにタイトルをもたらすことができるかどうかは分からないが、彼が愛国心や信仰心、奉仕の精神でバルサの窮地に現れた救世主ではないことは確かだ。フリックは指導することを求められて監督に就任した。そしてそれはバルサにおいては重大ニュースなのである。
文●ラモン・ベサ(エル・パイス紙バルセロナ番)
翻訳●下村正幸
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