アーケードゲーム『魔界村』と『いっき』は、名作だからこそファミコンへ移植されたはずで、事実、発売前は大きな期待を集めました。にもかかわらず、なぜファミコン版はクソゲーと成りはてちゃったのでしょうか。そこには相応の理由がありました。



原作のアーケード版は大傑作だったものの、移植を担当した下請け会社の技量がアレだったため、極悪難度のレッテルを貼られてしまったファミコン版『魔界村』。元々のレッドアリーマーはあんなに強くないんです! 画像はNintendo Switch Online版

【画像】こちらが全国のアーサーたちをパンツ一丁に剥きまくった「赤いアンチクショウ」です(4枚)

傑作アクションが極悪難度になり果てた『魔界村』の悲劇

 ファミコンソフトはROMカセットだけでも1000本以上あるためか、いわゆる「クソゲー」も相当な本数あります。異常に難度が高かったり、それ以前のデキだったり、コンセプトが意味不明だったり、高い評価とは別の方向で記憶に焼き付いたものをまとめての「クソゲー」です。

 そのうち、かなりの比率を占めるのがアーケード(AC)ゲーム=ゲームセンターに置かれていたタイトルの移植ものです。だが、ちょっと待って欲しい。もともと人気が高く、知名度もあったからこそ、ファミコンに移植されたはずです。

 それがクソゲーとして多くの人の胸に刺さっているのは、なまじファミコンソフトであれば数万本から数十万本も売れてしまい、原作(AC版)ゲームの印象を上書きしてしまったからでしょう。

 当時はゲームセンターに行けたのは基本的に大人だけで、子供にとってアーケードゲームは「名前を聞いたことはあるが、見たことがない」憧れの存在でした。その憧れがファミコンに移植され、家にやって来たときの夢と現実とのギャップが「クソゲー」という言葉に詰まっているのです。

 その筆頭に挙げられるのは、カプコンの『魔界村』でしょうか。騎士「アーサー」がさらわれた姫を救うために魔界を突き進む横スクロールアクションゲームであり、AC版は、当時としてはずば抜けて美しいグラフィックや、歯ごたえある難度ながらもテンポの良いゲーム進行が絶賛を集めます。

 それがファミコン版では、理不尽な難しさが子供たちをむせび泣かせる極悪ゲームに成りはててしまいました。フジテレビCS放送のゲームバラエティ番組『ゲームセンターCX』では、1ステージだけで約5時間も有野課長を苦しめています。

 こんなことになった理由は、おもに「マイクロニクスという下請け会社が移植を担当したから」のひと言に尽きます。いまや存在しない会社ですが、1980年代には数々のアーケード移植を手がけており、ほとんどが残念な結果でした。

 たとえば同じカプコンのシューティングゲーム『エクゼドエグゼス』ファミコン版は、処理落ちが酷くて画面がちらつき、説明書では「ときどき画面が見えにくくなることがありますが、ゲーム進行上の影響はありません」と開き直っていました。

 さてファミコン版『魔界村』は、大容量の1M(bit)ROMを使っており、初代『ドラゴンクエスト』の2倍あります。それだけに原作からキャラクターが削られることも、ステージ数が減ることもなく、その意味では頑張っています。

 が、主人公の動きがガクガクで、移動がモタつきます。その上、原作では必須テクだった「小刻みに動かしてモーションをキャンセル、高速に武器を連射」もできないため、硬い敵は撃破できずに苦戦を強いられることも珍しくなくなりました。

 その最たるものが、赤い悪魔「レッドアリーマー」です。トリッキーな動きをするものの、連射ができれば瞬殺できるはずが、序盤から立ちはだかる超強敵に変わってしまいました。有野課長も90連敗ほどしていましたが、原作ではあれほど凶悪ではありません。

 さらに、攻略のハードルを上げるオリジナル仕様も追加されています。たとえば、取るとアーサーを一定時間カエル(攻撃できなくなる)に変える「カエルキング」や、残り時間が減らされる「ニセ弥七」などバッドなアイテムが増やされました。

 また、特定のボスには一部の武器がダメージを与えられない新要素もあり、「オノが効かないボスの手前にオノを置く」素敵なトラップもしかけられています。原作ファンからは「要らないことをするな」という声が聞こえてきそうです。

 その一方で、ナイスな改変もあります。ラスボスを倒すのに必須の武器「十字架」は、原作では入手できるかどうか運まかせ、ザコが落とすまでこれを倒し続ける不毛な作業を強いられました。が、ファミコン版では隠しアイテムとして配置されており、確実にゲットできます。

 ゲーム全体を通してみれば、終盤は難度が下がっており、理不尽さは薄れています。が、序盤の難しさが劇的に跳ね上がっているため、後半にたどり着けるプレイヤーはごくわずかでした。当時の子供たちも、1面でレッドアリーマーに延々と足止めされるために5500円を払ったわけではないでしょう。



たったふたりでいっき! というストーリーは「バカゲー」狙いだったものの、移植が不完全すぎたために「元祖クソゲー」になってしまったファミコン版『いっき』。でも、おかげで知名度が上がったので結果オーライ?

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「バカゲー」を狙って元祖「クソゲー」になってしまった『いっき』

 サンソフトの『いっき』は「元祖クソゲー」ともいわれますが、少し事情が複雑です。

 重い年貢にあえぐ農民の「権べ」と「田吾」がいっきを起こすというストーリーですが、イラストレーターのみうらじゅん氏は『ドラゴンクエスト』の抱き合わせでファミコン版『いっき』を買わされ、「一揆はひとりやふたりで起こすもんじゃないだろ!」と面白おかしくいじりました。そして自腹で買ったのだから「バカゲー」ではなく……と呼んだことが、「クソゲー」という言葉の始まりだといわれています。

 みうら氏は「馬鹿っぽいゲーム」程度の意味でクソゲーと呼んでいますが、原作のアーケードゲームは佳作アクションゲームの域には達していました。

 主人公らは武器のカマを8方向に、歩きながら投げて攻撃できます。さらにパワーアップの竹槍を取れば、前方にしか攻撃できない一方、リーチが長く、移動速度はアップし、敵の忍者が放つ手裏剣に対しても無敵になります。これほど高性能なゲームの自機は、ちょっと珍しいほどです。

 ゲームの目的は、村に散らばる小判を集めることです。そもそも年貢として払った8両を取り返すことが一揆の目的のはずですが、なぜか村の中に8両あります。しかも千両箱まで落ちており、「一揆とは何か」と遠い目になります。

 そして画面の右にある「小判レーダー」は、戦いながら小判の場所を確認できる優れものです。そう新しいシステムではないものの、アーケードゲームでこうした機能を実装していたのは、当時『ラリーX』(ナムコ、当時)など数えるほどしかありませんでした。

 自機の操作はシャキシャキと快適で、ゲーム進行もスピーディ、小判を8枚集める代わりに代官を捕まえれば1面クリア、全8ステージを延々とループしてエンディングはないものの、周回するたびアイテムの配置が変わるなど、飽きの来ない作りとなっています。

 が、ファミコン版では竹槍のリーチが短くなり、無敵効果もなくなり、「竹槍を取ったら負け」といわれる格下げぶりです。便利だった小判レーダーも、バッサリと削除されています。さらにはマップが広くなり、迷いやすさが強まりました。

 その上、自機の移動も遅くなり、カマを投げながら移動もできず、千両箱など一部アイテムも削られ、ステージ数も8面から4面へと半減しています。だいたい、全てが「アーケードゲーム機より低いファミコンの性能」と「限りあるROMカートリッジ容量」のせいです。

 もしも、原作の『いっき』が忠実にファミコンに移植されていたなら、クソゲーと呼ばれていなかったのでしょうか。

 原作には権べと田吾がふたりきりでいっきを起こすオープニングデモがあり、意図的に「おバカ」を狙いに行っていると分かります。でも非常に完成度が高いので、バカゲー止まりになっていたでしょう。ファミコン版がアレだったおかげで「クソゲー」という言葉が生まれて良かったのかもしれません。

Nintendo Switch Online版『魔界村』:(C)CAPCOM CO., LTD. 1986, 2018 ALL RIGHTS RESERVED.
ファミリーコンピュータ版『いっき』:(C)SUNSOFT