もし人生で一度も『キン肉マン』に触れてこなかった人間が、初めて作品を視聴したら、どんな感想を抱くのでしょうか。今回は20代女性ライターが、1983年から放送されたTVアニメ初代『キン肉マン』を観賞し、忌憚のない「初見」の感想を記していきます。



画像は『キン肉マン一挙見Blu-ray 7人の悪魔超人編』(東映) (C)ゆでたまご・東映アニメーション

【画像】男前がさらにイケメンに? 昭和版と令和版の「テリーマン」を比較(4枚)

『キン肉マン』ってギャグマンガなの?

『キン肉マン』といえば、1980年代の「週刊少年ジャンプ」(集英社)をけん引した格闘マンガです。アニメ版も含めていまだに国民的な人気を誇っており、2024年7月7日からはTVアニメシリーズの最新作にあたる『キン肉マン』完璧超人始祖編の放送が始まっています。

 といっても、この広い世界には『キン肉マン』のことをあまり知らない人もいるのではないでしょうか。ほかでもない筆者(20代女性)自身、恥ずかしながら、生まれてからいままで一度も同作に触れたことがありませんでした。そこであらためてこの機会に、初代アニメ『キン肉マン』を第1話から視聴して、率直な感想を文章にしてみました。

名前だけは知ってるはずが……驚きのシーンの連続

 まず筆者の『キン肉マン』知識はどれくらいかというと、正直なところ完全にゼロというわけではありません。リングの上でプロレスのような戦いを繰り広げるバトル作品であることくらいは承知しています。また「キン肉マン」や「ラーメンマン」といったキャラクターの存在も、かろうじて知っていました。

 ところが初代アニメ『キン肉マン』では、そんなもともと持っていたイメージが次々裏切られることになりました。まず第1話「キン肉星からの使者の巻/アメリカから来た男の巻」で衝撃を受けたのが、コメディ色の強さです。隙あらば登場人物たちがギャグを連発し、そしてことあるごとにキン肉マンが「牛丼一筋300年~」と『牛丼音頭』を踊るのです。「あれ、『キン肉マン』ってギャグアニメなの?」と疑うレベルでした。

 もちろん、バトルがまったくないというわけではありません。Aパートでは「キン肉星」への帰還を拒むキン肉マンを連れ戻すために、対「ゴーリキ」によるデスマッチが繰り広げられました。しかしそのオチは、悶え苦しむキン肉マンの顔があまりにもアホ面だったために、ゴーリキが笑いすぎて腹がよじれて戦闘不能になるというものでした。もはやバトルは二の次で、ギャグがメインといった印象です。

 そして何より驚いたのが、キン肉マンの嫌われっぷりです。そもそも彼はあらゆるヒーローのなかでもスーパーヒーローに位置付けられているキン肉族の王子ですが、ウルトラマンをはじめとする他のヒーローたちに嫉妬心を燃やすダメヒーローでした。ゆえに市民からの信頼はゼロに等しく、子供たちや敵にさえ馬鹿にされる始末です。もちろん女の子にも壊滅的にモテず、近くでご飯を立ち食いしているだけで「いやー!」と女の子たちが逃げ出してしまうほどでした。

 ギャグっぽいテンションで中和されていますが、見れば見るほどキン肉マンがかわいそうになってきます。歴代「ジャンプ」主人公のなかでも屈指のみじめさではないでしょうか。

 なお、こうしたキン肉マンの哀れな境遇は、アニメ第7話から始まる「超人オリンピック編」まで続いていきます。そしてここで登場するのが、ラーメンマンです。ほとんど知っているキャラクターが登場せず、まるで異世界に迷い込んだような気分だったので、名前と顔だけは分かる人物に思わずほっとしてしまいました。

 そう、そのときの筆者は、ラーメンマンこそがとてつもない衝撃をもたらす問題人物であることに気付いていなかったのです……。



ラーメンマンがパッケージに描かれた『キン肉マン』DVD3巻(東映) (C)ゆでたまご・東映アニメーション

(広告の後にも続きます)

ラーメンマンの凶悪な戦い方にドン引き

 実をいうとアニメを観るまで筆者は、ラーメンマンのことをコメディ要員だと思い込んでいました。名前はもちろん、キャラクターデザインもいかにも「中華」なイメージを詰め込んだ見た目なので、到底シリアスなキャラクターには見えません。

 しかし現実のラーメンマンはまるで真逆です。残虐なファイトスタイルを売りとする残虐超人のひとりであり、「東洋の悪魔」の異名を持つとんでもなく恐ろしい人物でした。しかも超人オリンピックの決勝トーナメントでは、対戦相手であるブロッケンマンの口に蹴りをぶち込み、挙げ句の果てには胴体を真っ二つに折って死亡させてしまいます。「えっ、キミってそんなに恐ろしかったの?」とあ然としたことは言うまでもありません。

 ただし残虐極まりなかったのは序盤だけで、キン肉マンに敗北してからのラーメンマンは、魅力あふれる「漢」になりました。なかでも印象的だったのが、「超人オリンピック ザ・ビッグファイト編」で見せた「ウォーズマン」との一戦です。

 もはや自分に勝ち目がないことを悟りながらも、戦いをやめようとしないラーメンマンの背景には、次に対戦するキン肉マンのために少しでもダメージを与えたい、そしてウォーズマン攻略の糸口になってほしいというアツい思いがありました。その結果、ウォーズマンから受けた攻撃が原因で、見ることも聞くことも話すこともできない、いわゆる植物状態となってしまうのです。

 それでいてなお、キン肉マンの窮地には心の声でアドバイスを送るなど、どこまでも友情にアツい漢、それが真実のラーメンマンでした。誰ですか、彼をコメディ要員なんて言ったのは。めちゃくちゃカッコいいキャラクターじゃないですか。……本当にごめんなさい。

 ところでラーメンマンの一戦も然り、『キン肉マン』には意外とショッキングな場面が目白押しでした。例えば「超人オリンピック ザ・ビッグファイト編」でいうと、「ベンキーマン」の得意技「恐怖のベンキ流し」はもはや恐怖映像でしかありません。ベンキーマンの腹部は和式便器になっており、そこに超人たちを押し込んでは水に流してしまうのです。

 また第48話から始まる「7人の悪魔超人編」では、これまでキン肉マンとともに行動してきたミート君が悪魔超人のひとり、バッファローマンのハリケーンミキサーによって身体をバラバラにされてしまいます。

 そして極めつけは、同じく悪魔超人のひとりである「ミスターカーメン」でしょう。対戦相手である「ブロッケンjr.(ジュニア)」を必殺技のミイラパッケージに捕らえたミスターカーメンは、そのまま大きなストローを突き刺し、なんと体内の水分をチューチューと吸い上げるのです。そのおぞましさといったら!

 特に「悪魔超人編」の残酷描写、ひいてはシリアス展開は、いままでコメディ色が強かっただけにかなり印象的に映りました。あれだけ散々ギャグをやってきた『キン肉マン』がここまでシリアスになるとは……と、ギャップに風邪を引きそうです。

 ただ、これまで見たエピソードのなかで、筆者の胸を最も熱くさせたのも「悪魔超人編」であり、途中で描かれたキン肉マンたちの友情には思わず涙がこぼれそうになりました。

 今回視聴したのは、「怪獣退治編」から「悪魔超人編」までのエピソードでした。ここからどのような戦いが待ち受けているのか、アニメ『キン肉マン』の視聴に費やす今年の夏は、今まで以上にアツい夏となりそうです。