「夏場の男性の匂いが苦手すぎる」「1日数回シャワーを」という、某アナウンサーのXのポストが物議をかもした。猛暑が続くなか、指摘されるまでもなくニオイに気をつかっている人は多いだろう。しかし、どんなにケアをしていても「なぜか汗をかきすぎてしまう」「自分が汗臭い気がする」という人もいるはずだ。もし汗に悩んでいるのなら、今は病院で治療ができる時代になっている。劇的に進歩している“汗のニオイ”の治療について解説する。
汗のせいで夢をあきらめた
そもそも汗はどういう時に出るのだろうか。
汗は、出るトリガーによって分類されており、夏場などの暑さによる「温熱性発汗」、辛いものを食べた時などに汗をかく「味覚性発汗」、緊張状態やストレスなどによる「精神性発汗」の3種類がある。
しかし、それ以外の時にも大量の汗が出てしまう人もいるという。汗の原因やその治療に詳しい、「千葉船橋 痛みと多汗症クリニック」の浮田慎院長に話を聞いた。
「これといったトリガーがなくても過剰な汗をかいてしまうのが多汗症の方です。原因は交感神経が異常に興奮してしまうことで、手足などから滴り落ちるほど汗をかくことがあり、日常生活に影響を及ぼします。
交感神経が興奮してしまうきっかけは個人によって異なり、汗による悩みも多様であることが特徴です」
多汗症は遺伝的要因の可能性も指摘されているため、子どものころから汗で悩んでいるケースもあるという。
「たとえば、『試験の時に、ペンを持つ手の汗で解答用紙がぐちゃぐちゃになってしまう』『ワキ汗でグレーの制服が着られない』『足の汗でサンダルがすぐにダメになる』など、つらい悩みを持った方が多いです。
『汗のせいでピアニストの夢をあきらめた』『汗のせいでネイリストの仕事ができない』という話も聞きました」
多汗症で手に汗をかいてしまう人は、金属加工業など手を使う仕事に就けない。また看護師などの手袋をする仕事もできないそうだ。また、野球やテニスなど手を使うスポーツをあきらめてしまう人もいる。
多汗症ではない人にはわかりにくい悩みのため、「汗でそんなに悩むの?」と言われてしまうことが余計につらいそうだ。
浮田院長のクリニックには、自分が臭いのでは?と気になって「多汗症かどうか判断してほしい」と来院する人もいる。しかし、意外にも多汗症の汗自体は臭くないのだという。
「多汗症は一般的に『エクリン汗腺』という汗腺から出る汗で、サラサラしており、基本的にニオイは発生しません。乾いた時に塩分が付着する程度です。
ただし、汗をかいたままほうっておくと、皮膚の表面で皮脂や垢などと混ざり細菌が繁殖してしまい、乾いた雑巾のようなニオイを発生することがあります」
では臭い汗もあるのだろうか。
「それはいわゆるワキガ(腋臭症)です。『アポクリン汗腺』から出る汗で、独特のニオイがします。汗腺の大きさや、出てくる汗の量によってニオイの発生量が違ってきますね。多量に発汗する多汗症と腋臭症は合併することがあるため、ニオイを気にされて多汗症の治療を望まれる方もいますね」
それではこういった汗の悩みは病院で治療できるのだろうか。
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塗り薬で汗を止められる
「まず汗が出る仕組みを説明すると、交感神経が興奮してアセチルコリンという神経伝達物質が分泌され、汗腺の受容体に結合することで、汗となって汗腺、皮膚から放出されます。
水道にたとえると、交感神経が止水栓、受容体が蛇口のハンドル、汗腺が蛇口とイメージしていただくとわかりやすいと思います。それぞれへの治療アプローチがあります」
汗の治療はすべて保険適用でできるという。しっかりとしたエビデンスがあるということだ。まず、ワキガ(腋臭症)の方はどんな治療をするのだろうか。
「剪除法という手術でアポクリン汗腺を取り除きます。汗が出る蛇口そのものを取ってしまうということですね。ワキを裏返して切除するため形成外科で行なうことが一般的です。ただ、ワキガは多汗症と合併することがあるため、多汗症の治療とあわせて行なうことで高い効果を得られます」
それでは多汗症の治療はどんなものがあるだろうか。多汗症については、近年良い塗り薬が出てきたという。
「塗り薬には水道の蛇口のハンドルを閉めるような効果がありますね。エクロックゲル、ラピフォートワイプ、アポファイドローションなどがあり、すべてアセチルコリンや受容体の働きを抑える抗コリン薬で、手やワキに塗ります。夜に薬を塗り、翌日、塗った部位の汗が出にくくなるのです。これは継続して使用する必要があります」
さらに、外用薬だけで治まらず、しっかり効果を得たい場合は、止水栓を止める交感神経へのアプローチがあるという。