手術は日帰りで永続的な効果
交感神経へのアプローチは手術で行なう。
「当院では手、ワキ、顔など胸から上の部分の汗を抑えるために交感神経を切除する『選択的ETS手術』という手術を行なっています。
一般的なETS手術は比較的簡単な交感神経の本管を切除することが多く、交感神経枝に信号が残ることで「代償性発汗」という合併症が現れる場合がありました。たとえば、手の汗が減っても、胸や背中に汗をかきやすくなるというものです。
この代償性発汗を極力回避するため、当院では3~4か所の交感神経枝を切除する『選択的ETS手術』を行なっています。3mmの胸腔鏡をワキの下や胸部に挿入し、胸部交感神経の枝を選択して切除します。本管を温存したまま胸から上の発汗をしっかり抑えられることが大きな特徴です」
手術は全身麻酔で、1時間ほど眠っている間に終わる。効果は永続的で、傷も目立ちにくい。費用は所得により異なるが、保険適用で3万円~10万円ほどだ。
それでは下半身――臀部、ヒザ裏、足裏の汗はどうだろうか。
「『腰部交感神経節ブロック』という治療を行なっています。臀部、ヒザ裏、足裏は、腰部にある交感神経によって発汗しますが、ETS手術ができない位置にあるため今まで治療は難しいとされてきましたが、腰部交感神経節ブロックではそれが可能です。
レントゲン透視下で専用の注射針を用いて高濃度のアルコールを注入し、神経を変性させることで下半身の汗を抑えることができます。施術によって大量のベトベトの汗から、少量のサラサラの汗に変化するイメージです」
効果は2年ほど続き、費用は保険適用で7,500円だという。
「今は様々な治療法があるので、汗に悩んでいる人はぜひ受診してほしいです。多汗症は血液検査や具体的な点数、数値による基準がなく、患者さん本人の自覚症状という主観的な評価によるので、しっかり相談して治療法を決めていきます。患者さんが困っているのであれば治療適用になるということです」
シャワーや着替えなどで対策をしても汗が気になる人は、ぜひ一度、専門の医療機関を受診してみてほしい。
取材・文/金子弥生 写真/Shutterstock