「継続は力なり」とはよく言われる格言だが、人にとって物事を「続ける」ことはそう簡単ではない。一方、あえて「キリの悪いところ」でやめると続けられるというやり方がある。
脳神経外科医の菅原道仁さんが、人をやる気にさせる「ドーパミン」の力を活用して脳をその気にさせる方法を綴った『すぐやる脳』(サンマーク出版)から一部抜粋、再構成してお届けする。
「キリの悪いところ」でやめると続けられる
人は、成功したことより、失敗したことのほうを強烈に覚えているものです。
身近な例で言えば、うまくいった恋愛より失恋した体験のほうが、印象深く残る。人の心は、かくも不思議なものです。
心理学用語では、これらの現象を「ツァイガルニク効果(ザイガニック効果)」(Zeigarnik effect)と呼びます。
ドイツの心理学者クルト・レヴィン氏は、人の記憶について「達成された課題より、達成されなかった課題や中断している課題のほうが記憶に残る」と考えました。
レヴィン氏の考えに基づき、実験を行い、実証をしたのがソビエト連邦(当時)の心理学者、ブルーマ・ツァイガルニク氏です。「ツァイガルニク効果」という名称は、彼女の名前に由来しています。
「ツァイガルニク効果」といういかめしい語感から、「なんだか難しそう」と感じる人も多いかもしれません。けれどもこの原理を利用した告知の方法は、実は現代にあふれ返っています。
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◼️「忘れる」から新しい課題に挑戦できる
たとえば、テレビの連続ドラマです。
どの放送回も必ず「物語の続きが気になるところ」で終わるスタイルになっています。だからこそ、視聴者は、次の放送も見たくなるわけです。
ウェブメディアのニュースサイトの構造も、同様です。
「あの大物芸能人に、初のスキャンダル発覚! そのお相手とは……」という文字を見れば、ついついクリックして、ニュースの続きを知りたくなるものです。
ウェブ上の広告も、しかりです。
「運動も食事制限もせずに10㎏ヤセた、その驚きの方法は……」というバナー広告を、思わずクリックしてしまった、という人は多いはずです。
平たく言うと、ツァイガルニク効果とは、「続きを〝引っ張られる〟ことで、続けたくなる」という、身に覚えのある心理のことです。
そのメカニズムを、科学的に説明してみましょう。
「何かを達成しなくてはいけない」という課題があるとき、人は程度の差こそあれ、緊張状態を強いられます。けれども、この緊張は課題が達成された途端になくなります。そして、そんな課題があったことさえ忘れてしまいます。
この「忘れる」という現象があるから、人は常に新しい課題に挑戦できるのです。
「忘れる」ことは、生きていくうえでとても重要なのです。
けれども、このメカニズムは、少々厄介です。裏を返すと、「課題が達成されない限り、忘れられない」ことになるわけです。脳には律儀な性質もあり、よくも悪くも「未完の課題」は忘れないのです。だから、「うまくいった恋愛より失恋した体験のほうが、印象深く残る」わけです。