パリ五輪・アメリカ戦の耐え凌ぐ戦い方は池田監督のやりたいサッカーだったのか。21年就任当初の方針を踏まえると疑問が…【退任に思うこと】

 2021年10月1日になでしこジャパンの監督に就任した池田太氏は、東京五輪でのベスト8敗退を受け、「もっとボールを奪う回数を増やせたのではないか」「もっとペナルティエリアに侵入できたのではないか」との疑問を持ったうえで「もっとアグレッシブな戦いを求めていきたい」と考えた。

 それから「奪う」というテーマ(ボールを奪う、ゴールを奪う、勝利を奪う)を掲げて、守備では少し高い位置でもボールを奪うアクションを、攻撃ではよりゴールに矢印を向ける意識を求めた。長谷川唯をボランチに固定するなどして組織力を高めた結果、2023年の女子ワールドカップではアグレッシブかつスピーディなサッカーでスペインを4-0で撃破するなど、池田監督の下でチームは躍動した(結果はベスト8)。

 しかし、ワールドカップ後、なでしこジャパンは複数のアクシデントに見舞われる。女子W杯得点王の宮澤ひなたがブラジルとの親善試合で骨折、今年に入るとテクニシャンの遠藤純、FKの名手・猶本光がいずれも膝の大怪我で長期離脱と、常連メンバーをコンスタントに招集できなくなったのだ。

 池田監督がワールドカップ後にトライした4-3-3システムも熊谷紗希のアンカー起用が上手くハマらず、今ひとつ機能しない。怪我人続出の中、追加招集の北川ひかるらの奮闘もあってパリ五輪の出場権は確保したものの、チームとして“進化の跡”を示せなかった印象があった。

 パリ五輪前、「何よりコンディションが重要」と池田監督は独占インタビューの場でそう語っていた。中2日の試合をこなす過密日程で結果を残すにはそこが最大の鍵になると強調していたが、この大舞台でも怪我人に苦しんだ。大会前のガーナとの強化試合で足を痛めた北川に続き、スペインとの初戦で清水梨紗が膝を負傷。さらに藤野あおば、谷川萌々子、古賀塔子らもコンディション不良でメンバー外になる試合があるなど、厳しい状況だった。
 
 女子ワールドカップ当時に比べるとチームのパフォーマンスもピリッとせず、スペインに逆転負け。ブラジル、ナイジェリアに競り勝つも、準々決勝でアメリカに敗れた。21年就任当初「もっとアグレッシブな戦いを求めていきたい」と宣言した池田監督がアメリカ戦で採用した戦術は、引いて守ってのカウンター。苦渋の決断だったはずである。

 確かにアメリカの攻撃を停滞させるうえでベストの選択をしたと思う。ただ、一方でこれが池田監督のやりたいサッカーだったのか。就任当初の方針を踏まえると、そんな疑問を抱いてしまった。

 パリ五輪でのベスト8敗退に、池田監督は間違いなく納得していない。その悔しさを示すかのように、8月21日にリリースされた「退任」のコメント欄には「なでしこジャパンとしてさらに上に進み、選手と共にここから先の景色を見たかったです」と記されていた。

 もっとも、昨年ワールドカップ後のチームの伸び悩みを考えれば、退任は致し方なしとの見方もできる。マンネリを避ける意味でも、このタイミングでの指揮官交代は悪くない。誰が新監督になるのか。JFAの動向を興味深く見守りたい。

 最後に。在任中、池田監督はインタビューを3度も受けてくれた。尖った質問に対しても表情を変えず淡々と答える姿が印象的だった。取材を終えると、リラックスした表情で冗談も言ってくれた池田監督。今はただ「お疲れ様でした」と伝えたい。

文●白鳥和洋(サッカーダイジェストTV編集部)

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