適応障害の元会社員(30歳)が、「学校の教科書」に載る人気イラストレーターになった話。

失敗したって、命が奪われるわけじゃない

——どのようにして、イラストレーターとして仕事を獲得していったのでしょう。 

最初はとにかく、再就職手当などの給付金を利用しながら、どんなに単価が安い仕事も引き受けるようにしました。

もともと趣味では「美少女」を描くことが多かったのですが、この分野はすでに多くのイラストレーターが参入しており、競争率が高く仕事につながりにくいと考えました。

そこで、自分の好みや個性よりも、汎用性の高さを重視。さらに当時、アメリカの画家・ノーマン・ロックウェル(1894-1978)の画集に魅せられ、「これだ」と思いました。彼は温かな画風でアメリカの市民生活を描いたことで有名で、絵からは、アメリカの人々の生活やストーリーがリアルに伝わってきます。そんなストーリー性のある画風を目指しつつ、イラストが多く使われる媒体とはなんだろう?と自分なりに洗い出したところ、辿り着いたのが「児童書」の分野でした。

汎用性とストーリー性、児童書にふさわしい温かみ……これらをミックスした作品をSNSに投稿していったところ、独立・開業して約半年で、企業や出版社からイラストの依頼をいただけるようになりました。

ちょうどコロナ禍に突入した時期で、オンライン上でイラストレーターを探すクライアントが増えていたのも大きいと思います。


2024年4月には、フジワラさんのイラストが掲載された教科書を小学1年生の娘さんが学校で使うことになった

——現在、イラストレーターとして4年目を迎えられたフジワラさん。これまで、業績は常に順調でしたか?

約1年で会社員時代と同等の収入を得られるようにはなりましたが、収入が減る時もあり、常に右肩上がりなわけではありません。でも今は、収入の安定よりも、心身ともに健康にはたらくことを大切にしているんです。

子どもたちにも、嫌々仕事をする自分より、楽しくはたらいている自分の姿を見せたいからです。

——会社員時代のフジワラさんのように、仕事へのしんどさやモヤモヤを抱えている若者にかけてあげたい言葉はありますか?

誰しも、学校や社会で生きる中でいろいろな価値観を植え付けられていると思います。「そんなやり方で上手くいくわけない」「そんなことしたって無駄だよ」……私は、イラストレーターになると決めた時、こうした自分の中の価値観をすべて引っ剥がそうと思いました。

すると、イラストレーターとしてのキャリアが拓けていったんですね。

だから、今モヤモヤしているのなら、思い悩んだまま留まるのではなく、まずは興味のある分野へと一歩を踏み出し、飽きるまでやってみたらよいのではないでしょうか。

自分のキャリアを歩むのに「絶対にこうしてはいけない」なんていう決まりはないし、失敗したって、命を奪われるわけじゃありません。

誰でも「今の仕事を続けたほうがいいのかな」「別の仕事をしてみたいな」と悩むことはあると思うんです。そんな時、直感で「こちらのほうがいい」と思う道ってありますよね。私は、この「直感」は8割方当たると思っています。

直感を信じて、だめだったらその時にまた考えたらいい。「やっぱりこの道が正解だった」と思えたのなら、その道を歩み続けるだけです。

(文:原由希奈 写真提供:フジワラヨシト氏)