理想はフロンターレ流、大木流、サッリ流のブレンド? J3で異彩を放つ寺田周平監督率いる福島の現在地【インタビュー2】

 川崎で多くの経験を積んで福島での挑戦をスタートさせた寺田監督だが、やはりプロチームで初めての指揮とあって不安もあったという。しかし、それは選手たちが解消してくれた。

「まずオファーをいただいたふたり(関塚隆テクニカルダイレクター、玉手淳一強化部長)からは、点を取れる、攻撃的なスタイルを築いてほしいと伝えてもらい、それは僕も目指したい、表現したいサッカーでもありました。ただそういう自分のやりたいスタイルがあっても、プレーするのは選手なので、選手に一番、楽しくやってもらわないとチームは強くならない、続かないとも感じていました。

 正直なことを言うと、オファーをいただけるまで福島の試合をなかなか観る機会がなかったんです。でも多くを観させていただくうちに、面白い選手が多いな、こんなことができそうだなとイメージが膨らんでいきました。

 そして実際に来てみたら、やっぱりイメージ通り。いや、イメージ以上に選手が積極的に取り組んでくれた。そこは僕がフロンターレから来たっていうのは、大きかったのかもしんないですね。フロンターレのコーチをやっていた人が、どんなことを教えてくれるんだろうと、興味を持ってくれたからこそ、食い付きがすごく良かったのかもしれないです。

 だから凄くやりやすかったですし、選手がだんだん良い感触を掴んでくれている実感もあったので、面白かったというのが素直な気持ちで。集中力も高いし、こういうことにトライしていこうって呼び掛けると、真摯にトライしてくれましたから」

 福島がトレーニングを行なっている十六沼公園天然芝グラウンドは豊かな自然に囲まれつつ、美しい芝生が広がっている。もっともクラブハウスはなく、シャワーも簡易的なもの。

 それでもグラウンドが活気に満ちているのは、取り組んでいるサッカーへの充実感、各選手の向上心があってこそだろう。そして、そこには寺田監督の信条も大きく影響していそうだ。
【動画】寺田監督らからのメッセージ
「当たり前ですが、勝つとか昇格って大事ですよね。ただその前に、自分は選手に成長してほしいという想いが強いんです。そして1年が終わった時に、このチームにいて良かったなって思ってもらいたい。だからこそ毎日の練習でも最大限、成長してもらうために、チャレンジ、トライをしてほしいですし、そういう声かけをしています。

 なんだかね、自分もこの年になって、残りの人生を考えるようになって、やっぱり1日1日無駄にできないと年々感じるようになっているんです。そういう意味では選手たちがどれだけ1日を大事にできているか分からないですけど、選手にとってこの1年とか1日の練習って、ものすごい大事だと伝えたいんです。

 だからこそ、そのための練習も考えなきゃいけない。とにかく選手が成長するために楽しく練習をやってほしいなっていうのが一番ですね。

 まあ成長しないで昇格できるとは思わないですけど、選手がつまらなそうに勝って、目先の結果だけのために毎日を過ごしても、ちっとも面白くないじゃないですか。やっぱり、毎日楽しく成長して、なおかつ結果を残したい。1年無駄だったって絶対思ってほしくないですから」

 だからこそ選手たちにもこう呼びかけた。

「シーズンの最初に、ふたつのことを伝えたんです。『みんなが成長するためにやろう』そして『福島に活力を与えるためにやろう』と」
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 では、寺田監督として目指すべきサッカーはどんなものなのか。インスピレーションを受けたチームがあるという。

「フロンターレっぽいってよく言ってもらえるんですが、学んだところを取り入れさせてもらいながら、フロンターレをすべて真似るつもりもないんです。僕個人とし一番影響を受けたのは、2006年に対戦した時の甲府でした。当時の大木(武)さんの甲府はものすごく刺激的で、あの時から自分がもし監督になったら、こんなサッカーをしたいなって夢見ていました。だからS級の研修も当時、大木さんが指導されていた岐阜へ行かせていただいたんです。

 その後の風間(八宏)さんのフロンターレ、オニさんのフロンターレからも多くを学ばせてもらいましたし、あとは2016年、2017年くらいのサッリが率いていたナポリ。当時のナポリのサッカーはめちゃくちゃ面白かった。基本的にサッカーを見るのは好きなんですが、次の試合も早く見たいと思える魅力があのナポリにはありました。だからシーズンの最初にも『こういうサッカーがしたい』と、選手たちにナポリの映像を見せたんです。

 あの時のナポリは、常にゴールに向かう、最短距離でゴールに向かうっていう部分が魅力で、それを意識したボールの動かし方をしていた。あとはやっぱり技術ですよね。日本のチームが海外のチームに勝つためには、今フィジカルっていう部分も注目されていますが、勝らなきゃいけないのはやっぱり技術のところだと僕は考えています。そこで上回っていかないと、絶対勝てないんだろうなと」

 大木監督、風間監督、鬼木監督、サッリ監督、彼らが作り上げたチームに共通するのは、ボールを大事にし、異彩を放ち、魅せる勝ち方を目指していた点だ。DF出身者の指導者はより手堅いチームを作る印象もあるが、4-3-3をメインシステムにする寺田監督は改めて異なるようだ。
「だってそっちのほうが面白いじゃないですか。やっぱり点が入ったほうが観ている人たちは面白いはずですし、絶対そっちのほうが盛り上がる。

 当然、守備も大事で、0-0で最後1点を取って勝つ形も痺れるし、サッカーの魅力だと思います。そこを楽しむ方もいるはずです。だけど自分はやっぱり点を取って勝つやり方をベースにしたい。そもそも点を取らないとサッカーは勝てないですからね」

 そのなかで福島では改めて技術の重要性も説いている。

「もちろんこだわっていますよ。1本のパス、ひとつのトラップを意識する。チームとしてまだまだですが、でも『ここでこう止めることができたら、こういうプレーができるよね』っていうのも映像で見せていますし、そうすると選手はちゃんと理解してくれて、トライしてくれる。その点ではもっと良くなるはずですし、すごい楽しみです」

 今季の24試合を終えて、福島は10勝3分11敗の10位だが、得点数はリーグ5位タイの36(失点数は27)。昨季のチームのトータルゴール数が37だったことを考えれば(昨季の同時期の成績は8勝6分10敗、21得点・27失点の14位)、大きな進歩と言えそうだ。

 まだ粗削りな面も多く、成績も安定しない部分もあるが、寺田監督が理想とするスタイルへ少しずつ近づいているのだろう。

■プロフィール
寺田周平 てらだ・しゅうへい/1975年6月23日、神奈川県生まれ。東海大を経て、川崎一筋でCBとしてプレーし、日本代表にも選出。引退後は川崎でアカデミーの指導などを務めながら、2020年からはトップチームのコーチとして鬼木達監督を支えた。今季から監督初挑戦として福島の指揮官に就任。

取材・文●本田健介(サッカダイジェスト編集部)

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