寺田周平監督の下でチーム作りが進む福島だが、魅力的なサッカーと同時に、ジェットコースターのような成績も残している。
岐阜との開幕戦に1-4で敗れて黒星発進した今季は、その後、連勝を果たすも5節からは7試合未勝利(2分5敗)と苦しい時を過ごした。だが、11節の岩手戦でJ3の1試合チーム最多得点記録を塗り替える9-0での勝利を挙げると、そこから4連勝を果たし、寺田監督はJ3の5月度の月間優秀監督賞を受賞。17節時点でチームは3位に浮上した。その後は3連敗も経験し、順位は再び下降したが、昇格争いになんとか食らいついている。
「開幕戦では岐阜に1-4で敗れたんですが、ある意味ベストゲームじゃないけど、めちゃくちゃ手応えがあったんですよ。こんな上手くいくんだと。1節、2節も、やっていて面白いと思いました。自分で言うのもなんですけど、選手たちは面白いプレーをしているなと感じていたんです。だから黒星スタートもまったくネガティブな気持ちにはならなくて、現に2節で宮崎に勝って、3節は松本に苦戦しましたが、そこも勝つことができた。
ただ、ちょっと癖のあるサッカーを目指している部分もあるので、対策されてきたなかで、なかなか勝てない苦しい時期も経験しました。でも、勝てなかったどの試合でも、明るい材料はありましたし、反省の繰り返しで、どんな結果でもひとつずつ積み上げていった形でしたね。
そこで選手もブレずに信じてやってくれたのが大きかったです。7試合勝てないなかで、疑心暗鬼になる選手が出てもおかしくなかったのですが、僕はそれを感じなかった。選手たちは楽しみながら真摯にトレーニングに臨んでくれましたし、自分も『この戦いで行くからね』って言い続けました。
ただ一方で、同じことをそのままやっても駄目なんで、どんどんバージョンアップしていこうと。どんどん付け加えて積み上げている形ですね」
【動画】寺田監督らからのメッセージ
もっとも結果が出ない時、責任を負うのは監督である。7戦未勝利の際を含めプレッシャーはなかったのか。
「正直、不安はありましたよ。やばいなと。選手は本当に前向きにやってくれているけど、そろそろ勝たなきゃいけないなと。でも、先ほど話した通り、やっているサッカーは面白いと自負していましたし、いつも試合会場に行くのが楽しみで仕方なかったんです。今日どんなサッカーができるのかなって。
でも7試合勝てなくて迎えた岩手戦は結果的に9-0で勝てましたが、順位的なところも考えたら、ここは勝たないとヤバいと、久しぶりに緊張感のあるゲームになりました。それでも選手が頑張ってくれた。感謝ですね」
岩手戦のひとつ前のゲーム、大宮戦(●1-2)では背中を押される出来事もあった。
「あの時、庄子(春男)さん(川崎の強化を長年務めた人物で現在は仙台の強化にあたる)が試合を見に来てくれて、『良いサッカーをやっているから、ブレずにやっていけば大丈夫だよ』と話してくれて。そういう言葉はやっぱり力になるんですよね。関さん(関塚隆テクニカルダイレクター)は常に的確なアドバイスとポジティブな言葉をかけてくれますし、オニさん(川崎の鬼木達監督)から電話をもらった時もありました。そういう声は本当に心強かったですし、ありがたかったです」
だからこそ目指すべき方向性は絶対に曲げなかった。
「やっぱり自分の、福島のサッカーを貫きたい。それで良いんだと、背中を押してもらえた感じでした」
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指導に正解はない。それはコーチ時代から実感していたことだろうが、監督になってより想いを強めているという。監督の難しさと聞かれると、この点を挙げる。
「まだ監督になって約半年で、答えがないっていう点には難しさを感じますね。相手のあることなので、何をもって正解かは分からない。
でも自分のなかでは、せっかくやるんだから後悔のないように、楽しもうっていう想いがあります。自分はそういう点で意外とポジティブな思考なのかもしれないです。だから選手たちと一緒に、とにかくチャレンジしたい。
ただそのベースにあるのはやっぱり選手に成長してほしいという想い。選手が成長してくれるなら様々な方法にトライしますし、それが正解に通じるか分からないですが、選手のことを常に考えながら行動したいですね」
そのなかで今季川崎からレンタルで加入した19歳のMF大関友翔は司令塔として異彩を放ち、同じく川崎からレンタルした19歳のSB松長根悠仁ら若手も逞しく成長。24歳のFW塩浜遼がチームトップの9ゴールを挙げる活躍も見せている。
「大関と松長根はフロンターレでは紅白戦にも出られない時もあったけど、こっちでもより頑張っている。それにシーズンの最初はメンバーに入ってなかった選手が明らかに逞しくなっていたり、選手の成長を見られるのは本当に嬉しいですね」
そして寺田監督の持ち前の明るさは、クラブを取り巻く環境をもポジティブにしている印象もある。指揮官は試合後、選手とともに必ずサポーターへ挨拶へ向かっているという。
「やっぱりね、観に来てくれた人たちが喜んでいるのを見ると、めちゃくちゃ嬉しいですからね。本当にいい景色だなと」
その想いを胸に、福島というクラブのさらなる発展も目指す。
「クラブハウスなど足りないものはまだたくさんありますが、それでも素晴らしいピッチで日々、練習できているってことが、僕らのサッカーを支えてくれていますし、幸せです。
確かにフロンターレのようなトップレベルの施設があるチームと比べれば、差はありますが、むしろここには伸びしろしかない。今はお客さんも多いとは言えないですが、僕らが頑張れば、露出も増えるはずですから。
少しでも興味を持ってもらい、スタジアムに足を運んでもらえれば。そこにやりがいを感じますし、福島に活力を与えるっていうのも僕らの目標です。今もお店で声をかけてもらえる機会が少しずつ増えているんです。
だからこそ、この勢いを加速させていきたい。今はスタジアム(とうほう・みんなのスタジアム)に集まってもらえる人数は限られていますが、それが3000、4000って増えていったら僕はもう感動しちゃいますよ。そのためにも頑張ろうってなります。
それに震災からの真の意味での復興という想いも背負っているクラブで、話を聞いていると、当時被災して苦しい思いをしたスタッフもいるんですね。だからこそ福島の希望になるために活動をしているわけでもあって、僕らができることは限られていますが、成績を残して元気になってもらえたら、喜んでもらえたら、こんなやりがいはありません」
1年戦い抜いた先に「みんなが喜べる結果で、福島の街の雰囲気が少しでも変わってくれていれば嬉しい」とも話す。ただそれは「1年ですべてを変えられるわけでもない」とも理解している。
だからこそ一歩ずつ。理想を掲げながら。
その道のひとつとして、クラブは8月31日の北九州戦(18時キックオフ)で5000人を集めようとPR活動を進めている。いつもよりも多くの人が集まったスタジアムで勝利を飾れれば、寺田監督の目には改めて感動的な光景が刻まれるのだろう。
まだまだ小さい火なのかもしれない。それでも理想を追い求める福島の挑戦はきっと観る者の心を熱くしてくれるはずだ。そのチャレンジを現地で目にして見るのも良いのではないか。
■プロフィール
寺田周平 てらだ・しゅうへい/1975年6月23日、神奈川県生まれ。東海大を経て、川崎一筋でCBとしてプレーし、日本代表にも選出。引退後は川崎でアカデミーの指導などを務めながら、2020年からはトップチームのコーチとして鬼木達監督を支えた。今季から監督初挑戦として福島の指揮官に就任。
取材・文●本田健介(サッカダイジェスト編集部)
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■8月31日はスタジアムへ!
8月31日(土) 18:00
北九州戦(とうほう・みんなのスタジアム)
は「集まれ5,000人!ユナまつり」と題し
様々なイベント(花火やベースボールシャツをプレゼントなど)を企画中!
詳細は下記へ
https://fufc.jp/lp/2024/0831/
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