ホラー映画『サユリ』に、多数の絶賛の声が寄せられています。「原作改変」はマイナス要素としてよく挙げられますが、本作に関しては原作者も納得どころではない、新たな感動と奥深さを生み出していました。
映画『サユリ』ポスタービジュアル (C)2024「サユリ」製作委員会/押切蓮介/幻冬舎コミックス
【画像】え…っ?「ギェェェッ怖ッ!」「あれ、原作だとちょいカワイイ」 こちらがみんなにトラウマを植え付ける霊「サユリ」ちゃんです(5枚)
『ルックバック』と似た感動すらある
2024年8月23日(金)公開のホラー映画『サユリ』は、試写で鑑賞した人から絶賛が飛び交っています。「最高のエンタメ映画」「あまりの面白さに興奮&感動」「いろんな感情が楽しめる」「観た後は強くなれる」「『リング』や『エクソシスト』と並ぶホラー映画史を塗り替える傑作」など、特に「エンタメ性の高さ」を評する声が相次いでおり、「ホラー映画なのに泣いた」との声も少なくありません。
さらに、本作は予備知識をいっさい必要としない作品です。ストーリー上分かりにくい部分も、退屈するスキもいっさいありません。「刺激の強い殺傷・流血の描写がみられる」という理由で映倫によって「R15+」の指定がされており、確かにショッキングな描写は容赦がなく怖いのですが、残酷描写にある程度耐性のあるすべての方に推薦したい作品です。
なお、中盤のとある驚きの展開は映画の公式の予告編や触れ込みで明らかとなっており、それを期待して観るのももちろんOKですが、一緒に連れて行く友達には内緒にしておくのも楽しいでしょう。ここまでのクオリティーになった理由を、本編のネタバレになりすぎない範囲で解説します。
同じく押切蓮介さん原作のホラー映画『ミスミソウ』も高評価
その『サユリ』の原作マンガを手がけていたのは、アニメ化もされた『ハイスコアガール』でも知られる押切蓮介さんです。押切さん原作のホラーマンガの実写版では、2018年に公開された『ミスミソウ』も高い評価を得ていました。
『ミスミソウ』で描かれるのは、凄惨ないじめを受け、さらに両親を殺された中学生の少女が復讐に向かうという苛烈な物語で、血しぶきの連続となる残酷な内容によって、もちろんR15+指定となっています。
実写映画『ミスミソウ』を手がけたのは、『先生を流産させる会』や『許された子どもたち』など、子どものいじめや悪意ある心情を生々しく描くことに定評がある内藤瑛亮監督でした。少年少女がこれ以上のない絶望に向かう姿を描いた原作と、最大限にマッチした監督の人選だったのです。
娯楽性抜群のホラーを手がける白石晃士監督との相性の良さ
一方、今回の『サユリ』で監督を務めるのは白石晃士さんで、こちらも原作との相性が抜群でした。何しろ白石監督は「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」シリーズや『貞子vs伽椰子』など、一応は恐怖映画のジャンルを手掛けながらも、とにかくエンタメ性の高い作品がホラーファンから支持を得ています。彼の作品群では、恐怖の対象をただ恐れたり、無残かつ理不尽に殺されたりするだけでなく、時には「対抗手段」をとって「反撃」する展開も特徴です。
詳細は秘密にしておきますが、今回の『サユリ』も原作の時点ではっきりと「反撃(復讐)」の物語であり、いい意味で「陰惨で絶望的」だった『ミスミソウ』とは雰囲気が全く異なります。誤解を恐れずにいえば、後半のストーリーはもはや「アゲアゲ」ともいえるハイテンションな展開となり、はっきり「笑える」領域になるのです。
それまで描かれる物語が悲劇に次ぐ悲劇だっただけに、観ているこちらも「やってやれ!」とテンションが上がりますし、それでいて「敵」にあたる霊「サユリ」の恐ろしさは変わらないので、ハラハラドキドキも継続されています。とにかく「ザ・エンターテインメント」といえる作劇となっており、バラエティー豊かな見せ場も続くので、観ているともう「映画ってなんて面白いんだ!」と思ってしまうでしょう。
改変がすべてプラスになる
さらに、映画『サユリ』は原作にはない映画オリジナルの要素も多くあり、恐怖シーンもかなりの変更が加えられています。たとえば、「吹き抜け」のシーンは絶叫クラスの恐ろしさですし、反撃のための「とある特訓」も新たに付け加えられたものです。それらもまた「白石監督らしい」ものでありつつも、原作を邪魔するものではなく、むしろ復讐ものの痛快さを増し、物語の根底にあるスピリットをくみ取って、さらには「+α」以上の新たな感動と奥深さを生み出していました。
そして、真にネタバレ厳禁の終盤のとある要素と、それを活かしたクライマックスの展開に、筆者は思いっきり涙を流していました。この結末はいたずらにショッキングなだけではなく、エンタメとしても面白く、さらに世界にある残酷さをはっきりと描くとともに、原作の感動的なメッセージにも見事につながっています。
よく「原作改変」は批判の対象になりますが、この『サユリ』の改変は、原作の素晴らしさに改めて気付き、映画そのものの面白さに涙するという、マンガの実写映画化の理想的な形といえるでしょう。ネタバレせずになんとか言える範囲では、「人間の罪と業」と「アクション」と「ラブストーリー」という要素が、原作よりもマシマシになっていることにも、ぜひ注目してみて下さい。
改めて最高の相性を見せた原作と監督
『サユリ』のプロダクションノートでは、押切さん自身が「僕がこの『サユリ』というマンガに取り組む際は『映画チックに描こう』と心がけ、2時間の映画を楽しむような感覚を読者に与えたかった」ことを語っています。原作は全2巻(完全版は全1巻)というタイトな尺であり、起承転結も分かりやすく、そもそもが映画化に向いている内容だったといえるでしょう。
そして、押切さんは今回の映画を「凄いものを観た!」「怖かったし、それでいて泣けました」「家に帰ってからも妙に思い返せて『余韻に浸れる作品」になっていた」「役者さんはお世辞抜きに、全員素晴らしかったです!」「白石監督に撮ってもらって本当によかったです!」と、絶賛しています。
さらに、白石監督は原作を読んだ時から、自分の作品『カルト』や『貞子vs伽椰子』を鑑みて「日本で撮るのであれば私しかいないだろう」と自信を持ったそうです。そして、白石監督は「実写化を通して、恐怖の感覚と生命力の強さを衝突させたいという根っこのコンセプト-それを観てくださる方々ヘストレートに伝えられる映画になったなあと感慨深いです」「観ていただければ多くの方々に『面白い!』と感じてもらえるんじゃないか」ともコメントしています。
実際に、押切さん、白石監督それぞれの言葉通りの内容になっていると思います。本作のとてつもない感動と、この過酷な世界で生きる希望をもらえるメッセージ性の真摯さは、あのアニメ映画『ルックバック』にも引けを取りません。筆者個人としては、マンガ原作の実写ホラー史上最高、いや、「すべてのホラー映画のなかでNo.1」と断言できるほど、大好きな作品になりました。
さらに、公式サイトに掲載されている白石監督と押切さんによるコメントからも、両者の本作に込められたとてつもなく強い想いが伝わるでしょう。原作者と監督、それぞれの作家性がガッチリ噛み合い、さらにスタッフとキャストそれぞれも最高の仕事をしたからこその大傑作『サユリ』を、ぜひ劇場という最高の環境でご覧下さい。