さまざまなデザインのウルトラ怪獣のなかには、「中の人」がどのように入って、動いているのか一見すると分からない、そんな怪獣がいます。いったい、どのような仕組みだったのでしょうか?



「S.H.フィギュアーツ 帰ってきたウルトラマン ツインテール」(バンダイ) (C)円谷プロ

【画像】え…っ? 「中の人どうすんのこれ」 こちらが「ウルトラマンを攻撃」してる時のツインテールです

「背骨終了?」目を疑いたくなる激しいアクションを可能にした「職人技」

 ウルトラシリーズに登場する怪獣たちに関して、子供の頃は「中の人」などいないと思っていましたが、大人になったいま見直しても、やはり「中の人」などいないのではないかと思う場面がよくあります。怪獣のデザイン、着ぐるみの造形、そしてスーツアクターの皆さんの尽力によって、ウルトラ怪獣は間違いなく「命」が吹き込まれていました。

 実際、「中の人」が入っていると知りながら見ても、「ではどうやって入っているのか?」と思わず首を傾げてしまうような怪獣も、これまで数多く登場してきました。この記事ではそんなデザイン、造形、アクターの職人芸が三位一体となって生み出された名作ウルトラ怪獣を、比較的初期の作品から振り返りましょう。

『ウルトラマン』第13話「オイルSOS」に登場した「ペスター」は、まさに好例といえるかもしれません。巨大なヒトデがふたつ並んだような胴体、その中央にはコウモリに似た頭部が据えられています。怪獣らしい異形ぶりや、生物としての統一感を同居させた傑作怪獣です。

 さて、怪獣一体に対しスーツアクターひとりというイメージでこのペスターを眺めると、胴体の両翼部分が独立して動いているところなど、理解が追いつきません。それもそのはずで、両翼にそれぞれひとりずつスーツアクターの方(荒垣輝雄さん、清野幸弘さん)が入っていたのです。デザイン担当の成田亨さんが「意外な形を追求」した結果、着ぐるみの可能性が一気に広がりました。

 なお直前の第12話「ミイラの叫び」に登場した「ドドンゴ」もまた、ふたり体制の着ぐるみであり、ペスター同様に荒垣さん、清野さんが演じられています。ドドンゴは中国神話の麒麟(きりん)に似た姿で、ふたりは着ぐるみの前と後ろに分かれて入っています。

 こちらは、シンプルな四つんばい怪獣と異なり、前脚の屈折をより自由に表現できるのが特徴です。これを可能にしたデザインもさることながら、高山良策さんによる着ぐるみ造形もまた神がかっています。なおこのドドンゴのスタイルは、のちの『ウルトラマンA』の「ブロッケン」などでも採用されることになりました。

 続いて、『帰ってきたウルトラマン』に登場した怪獣にも目を向けましょう。第5話「二大怪獣東京を襲撃」で初登場の「ツインテール」は、「中の人」を感じさせない怪獣の代表例ではないでしょうか。

 池谷仙克さんによる、イモムシのような生物がシャチホコのように逆立ちした「異形」のデザインは、強烈なインパクトを残しました。顔は地面で、尾部からは2本の触手が伸びています。この造形も高山良策さんが担当されました。

 劇中では体をぐねぐねと動かしながら、ウルトラマンを触手で攻撃し続けます。かと思えば身体を前に後ろに大きく反らせて攻撃をかわすなど、もう生きているとしか思えないアクションでウルトラマンを翻弄(ほんろう)しました。

 とはいえ、もちろん「中の人」の背骨が犠牲になっているわけではありません。ツインテールの着ぐるみ自体がそれぞれ前向き、後ろ向きで入れる仕組みであり、ひとりのアクターがシーンごとに入り直して撮影していました。こうした演出もアイディアだけでなく、それを形にする確かな技術によって実現していることは、改めて記憶に刻みたいところです。

 また、『帰ってきたウルトラマン』第10話 「恐竜爆破指令」に登場した「ステゴン」という、骨の怪獣も独特な見た目でした。上述の怪獣たちに比べると知名度がやや低いかもしれませんが、着ぐるみの完成度、命の吹き込まれ方の斬新さにおいては、突出した傑作と言わざるを得ません。

 ウルトラシリーズには「ネロンガ」「ガボラ」「ケムラー」と、たくさんの四つんばい怪獣が登場してきました。しかしながら人間が中に入って演じると、どうしても骨格の違いから、ひざ立ちの状態で進むしかありません。この課題をクリアしたのが、ステゴンなのです。

 ステゴンの着ぐるみは前脚部分に高下駄が入っており、そのため演者が後脚を伸ばすことができて、膝で歩かずに済むようになりました。第4話登場の「キングザウルス三世」も、ひざが地面から離れていますが、ステゴンの着ぐるみはさらに明確にその可動域が分かりやすくなっています。

「怪獣」という存在は、着ぐるみとは切っても切り離せないものです。CG技術の進歩で、現実にいるようなリアリティのある「怪獣」を描くことが可能になりました。しかし、今を代表するような特撮監督もまた、「着ぐるみ」を愛してやまない方々ばかりです。「中の人」は着ぐるみだろうと、CGであろうと怪獣の中にいるのです。

※参考書籍

・成田亨『特撮と怪獣 わが造形美術 増補改訂版」 (リットーミュージック)
・鶯谷五郎『円谷怪獣デザイン大鑑1971-1980 豪快奔放』(ホビージャパン)