ハーレーダビッドソンの日本法人が、販売店に対する不当なノルマを課した疑いがあったなどとして、7月30日に公正取引委員会が立ち入り検査に入っていたことが明らかになった。通常の営業活動では決して達成できないような目標を課されたため、販売店によっては自分たちで新車を購入して数字を底上げする、“自爆営業”もあったようだ。一連の騒動はアメリカ本社の販売戦略の失敗が、日本でも悪い形で表出しているのではないだろうか。
未開拓ライダーの獲得を狙ってマーケティング戦略を重視
ハーレーダビッドソンは2020年5月にヨッヘン・ツァイツ氏をCEOに迎えた。ツァイツ氏は30歳にしてドイツのスポーツブランド、プーマのCEOに任命されたやり手のビジネスマンだ。トップ就任後は財政難に陥っていたプーマを再編。8.6ユーロだった株価は最高350ユーロに達したことで知られている。
ツァイツ氏が就任する前のCEO・マシュー・レヴァティッチ氏は機械工学や経営を学んだ後にハーレーダビッドソンに入社し、2009年から2015年まで経営トップを務めた人物だった。
ツァイツ氏のバックボーンはマーケティング。会社のトップが理系出身からマーケティングの専門家へと移ったことが、ハーレーダビッドソンという会社の転換点をよく物語っている。
ハーレーは2020年2Q(4-6月)に1億1600万ドルの営業損失に転落。コロナ禍で営業活動が制限されたことで、10年ぶりの赤字となった。ただし、その前から業績は低迷していた。
レヴァティッチ氏は中国メーカーと提携して初のOEM(「Original Equipment Manufacturing(Manufacturer)=他社ブランドの製品を製造すること、あるいはその企業を指す)に取り組むなど、価格を引き下げて販売数の拡大を狙っていたが、結果として販売台数は振るわなかった。
ツァイツ氏が率いるハーレーダビッドソンは、2021年2月に5か年計画「ハードワイヤー」を発表。未開拓のライダーを取り込んで顧客の裾野を広げることを重点施策の一つに掲げた。
その結果として誕生したのが、アドベンチャーバイク「パン・アメリカ」や、水冷Vツインエンジンを搭載した「スポーツスターS」だ。
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2023年度は営業減益で着地
ハーレーはブランドの強みに焦点を当てて新たな顧客開拓を行おうとした。それ自体は決して悪いことではない。ハーレーは「空冷Vツインエンジン」を積んだアメリカンと呼ばれるスタイルが主流で、映画『イージーライダー』や『ターミネーター2』などで登場するイメージが消費者の頭に強烈に刻み込まれている。
それがブランドの熱烈なファンを生んだのは間違いないが、年齢層は中高年が中心だ。そのため長期的に見ればジリ貧になるのは間違いない。ブランドの強さを堅持しつつ、消費者が想起するイメージを転換するという難易度の高い領域にチャレンジしていた。
2021年度の業績は急回復を期待させるものだった。売上高は前期の1.3倍となる53億ドル、営業利益は91倍の8億ドルに跳ね上がったのだ。しかし、翌期から停滞感が漂い始める。
2023年度は売上高が前年度比1.4%増の58億ドル、営業利益は同14.3%減の7億ドルだった。売上高は微増、1割超の営業減益である。営業利益率は15.8%から13.3%まで2.5ポイント下がった。
2024年度2Q(4-6月)の売上高は前年同期間比12.6%増の13億4800万ドル、営業利益は同8.9%増の2億ドルだったものの、営業利益率は18.5%から17.9%へと下がっている。
2021年に販売を開始したアドベンチャーバイク「パン・アメリカ」は、市場に出回り始めた当初こそ四半期で4000台前後を出荷していたが、現在は2000台にも届いていない。2023年は年間の出荷台数がわずか5128台だった。
また、同社の「スポーツスターS」も出荷台数は振るわない状態が続いている。