『ラストマイル』(8月23日公開)

 流通業界最大のイベントの一つである“ブラックフライデー”の前夜、世界規模のショッピングサイトの関東センターから配送された段ボール箱が爆発する事件が発生。やがて、日本中を恐怖に陥れる謎の連続爆破事件へと発展していく。

 巨大物流倉庫のセンター長に着任したばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は、チームマネジャーの梨本孔(岡田将生)と共に、未曾有の事態の収拾に当たる。

 誰が、何のために爆弾を仕掛けたのか? 残りの爆弾は幾つで、今どこにあるのか? 現代社会の生命線である流通システムを止めずに、いかにして連続爆破を阻止することができるのか? それぞれの謎が解き明かされた時、事件の裏に隠された真実が浮かび上がる。

 テレビドラマ「アンナチュラル」「MIU404」の塚原あゆ子監督と脚本の野木亜紀子がタッグを組み、両シリーズと同じ世界線で起きた連続爆破事件の行方を描いたサスペンス映画。

 物流関係者役で阿部サダヲとディーン・フジオカが出演するほか、捜査を担当する刑事役で「アンナチュラル」の大倉孝二と「MIU404」の酒向芳がコンビを組む。さらに「アンナチュラル」から石原さとみ、井浦新、窪田正孝ほか、「MIU404」から綾野剛、星野源ほかが出演する。主題歌も「アンナチュラル」「MIU404」に続いて米津玄師が担当。タイトルの「ラストマイル」は、物流の最終拠点から顧客に届くまでの「最後の1区間」のことを表す。

 例えば、「アベンジャーズ」シリーズなどのマーベル映画は、関連映画やドラマを見ていない者には何が何だか訳が分からず、シリーズ全体を把握している者にしか心底楽しめないところがある。

 この映画の場合も、もちろん「アンナチュラル」と「MIU404」を見知っているのに越したことはないが、たとえ見ていなくても単独作として十分に楽しめる(ここが重要)。

 加えて、流通システムの仕組みや裏側、問題点、従事する者の誇りや迷いなどがきちんと描かれているので、興味深く見ることができるし、ネタバレになるので詳しいことは書けないが、事件の真相を追うサスペンスとしてもなかなかよくできている。

 最後に小ネタを一つ。この映画の冒頭で、下請けドライバー(火野正平)のカーステレオからアメリカの「ヴェンチェラ・ハイウエイ」が流れる。何か意味があると思われるが分からない。ところで、パリオリンピックのブレイキン女子決勝で、DJがかけた曲もアメリカの「名前のない馬」だった。この曲は『コヴェナント 約束の救出』(23)でも使われていた。こうした流れに、今、アメリカがちょっとしたブームなのかと興味が湧いた。

『ポライト・ソサエティ』(8月23日公開)

 ロンドンのムスリム家庭に生まれた高校生のリア・カーン(プリヤ・カンサラ)は、スタントウーマンを目指してカンフーの修行に励んでいるが、学校では変わり者扱いされ、両親からも将来を心配されていた。

 そんな彼女にとって、画家志望の姉リーナ(リトゥ・アリヤ)が唯一の理解者だ。ところが、リーナは富豪の息子と恋に落ち、彼と結婚してシンガポールへ移住することに。

 彼の一族に不信感を抱いたリアが独自に調査を進めると、結婚の裏には驚くべき陰謀が隠されていた。リアは姉を救うため、友人たちと共に結婚式を阻止すべく立ち上がる。

 カラフルな民族衣装に身を包んで戦うムスリム(イスラム教徒)の姉妹を活写したイギリス発の青春バトルアクション。テレビドラマの演出で高く評価された、パキスタン系イギリス人のニダ・マンズールが監督・脚本を担当し、英国インディペンデント映画賞で最優秀新人脚本家賞を受賞した。

 全編を、「二姉妹物語」「イードの夜会」「ワイフハンター撃退作戦」「シャー邸の襲撃」「ザ・ウェディング」という5章に分けて構成。テーマは「ポライト・ソサエティ=凝り固まった社会」からの脱却だ。

 アクションの形はジャッキー・チェン、ガールズアクションとしては『キック・アス』(10)の影響を強く感じさせる。既製の音楽の使い方もクェンティン・タランティーノ風だ(浅川マキの「ちっちゃな時から」が流れたのには驚いた)。

 とはいえ、イギリス人女性とパキスタン移民の男性との恋を描いた『きっと、それは愛じゃない』(22)でも、文化や宗教、結婚観や価値観の違いが描かれていたが、この映画でもムスリム独特の宗教観や結婚観が描かれていて興味深く映った。

(田中雄二)