「高校野球ってなんで坊主なんですか?」慶応“サラサラヘア旋風”から1年…球児が望まない「丸刈り」は人権侵害か

「僕の野球は高橋由伸さんを見た瞬間、終わった」

中村 早見さんは殴られて、たとえば指導者に言い返したことはあるんですか。「殴られなくてもわかります」って。私はそれができなかったことを今も後悔しているんですけど。

早見 絶対に言えませんでしたね。僕らの代の選手はわりとみんな言葉を持っていたと思うんですけど、言い返すという発想にさえ及びませんでした。それに、僕みたいなベンチ入りすれすれの選手が言い返したら、試合で使われなくなるだけじゃないかって。それだって大いなる思考停止のひとつなんですけど。

中村 私は慶應の選手を取材していて思ったのですが、本当は言ってもいいんですよね。

早見 僕も慶應の森林貴彦監督のインタビューなどを聞いていて、そういう空気を作ることこそが大人の仕事なんだなという気がしました。

僕の高校の監督も言ってたんですよ。「言いたいことがあったら言ってきなさい」って。でも、そう言いながらもめちゃめちゃ重い空気が漂ってるわけです。正直、言えるわけがなかった。これがレギュラーだったら、ちょっと違ったのかな。

僕の2年先輩に高橋由伸さん(元巨人)がいたんです。僕の野球は由伸さんを見た瞬間、終わったんです。プロ野球選手になんてなれないと突きつけられた。

もし、僕が由伸さんだったら嫌なものは嫌だって言えてたんですかね。いやぁ、でもどうなんだろう。あのときの由伸さんでさえ、間違っていることを間違っていると主張するという絵は思い浮かびません。

#3に続く

撮影/下城英悟

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アルプス席の母

早見 和真

2024/3/151,870円(税込)354ページISBN: 978-4093867139

まったく新しい高校野球小説が、開幕する。

秋山菜々子は、神奈川で看護師をしながら一人息子の航太郎を育てていた。湘南のシニアリーグで活躍する航太郎には関東一円からスカウトが来ていたが、選び取ったのはとある大阪の新興校だった。声のかからなかった甲子園常連校を倒すことを夢見て。息子とともに、菜々子もまた大阪に拠点を移すことを決意する。不慣れな土地での暮らし、厳しい父母会の掟、激痩せしていく息子。果たしてふたりの夢は叶うのか!?
補欠球児の青春を描いたデビュー作『ひゃくはち』から15年。主人公は選手から母親に変わっても、描かれるのは生きることの屈託と大いなる人生賛歌! かつて誰も読んだことのない著者渾身の高校野球小説が開幕する。