ポスト中村憲剛と称される福島の大関友翔。ケンゴさんからの0.5歩分の教えと“性格が悪い”と褒められた意味【インタビュー2】

 常に首を振りながら、絶妙なポジショニングでボールを引き出し、しなやかな身のこなしでプレスを外して決定的な場面を作る。

 福島で14番を背負う大関友翔のプレーを見ていると、あのレジェンドの姿を思い出す人も多いのではないか。

 大関も憧れ続ける存在、中村憲剛である。

「運が良かった」と、中村が引退した翌年の2021年、2022年、川崎U-18に所属していた大関は、その理想とするバンディエラから薫陶を受ける機会を得られたのである。

「色々教えてもらったんですが、ケンゴさんのアドバイスで一番、印象に残っているのは『自分が思っているより味方ってフリー』ということ。ケンゴさんいわく味方と相手の距離が0.5歩でも離れていたらパスを差し込めると。そこは1歩分ではなく、0.5歩分でマークは外れているって言うんですね。だからそこに差し込んでいかなくちゃいけないと。

 それを聞いた時に、やっぱり僕と見えている景色や、価値観、考え方が違うんだなと実感しましたし、自分なんかより遥か上にいる人なんだなと改めて思いました。自分が実際に判断したプレーを振り返ってみても、ケンゴさんだったら違う選択肢を持ていたんだろうなとか、そうしたギャップを感じ、もっとやんなきゃいけないって考えさせられましたね」

 ちなみに中村憲剛は、以前、大関のことを良い意味で「性格が悪い」と評していた。敵を欺き、時には味方まで欺き、ピッチ上の選手たちを弄ぶような、観ている者たちの度肝を抜くような、サッカーの神髄ともいえる遊び心が大関にはあると、自らに似た匂いを感じていたからこそ、そう称したのだろう。大関も中村から実際に同じ言葉をかけられたという。

「『俺もそうだけど、良い意味で“性格が悪い”』と言葉をかけてもらい、嬉しかったですね。僕はその言葉を相手を出し抜くのが上手いという意味で受け取っています。多分、ケンゴさんもプレーは“性格が悪い”んでしょうね(笑)。僕にとっては素晴らしい褒め言葉ですし、やっぱりケンゴさんに言われたことはすべてなんでも嬉しいんです」

 その意味で改めて大関は“ポスト中村憲剛”と評すことができ、さらに本人は最近の試合前には、これまた川崎のふたりの先輩のプレー動画を見て、イメージを膨らませているという。

「最近は試合前にヤスくん(脇坂泰斗)と(大島)僚太さんのプレー集を見ています。ヤスくんは得点に関わる部分や、相手の逆を取るところ、ターンであったり、今僕がやりたいプレーを表現しています。僚太さんは相手の逆を取るプレーや、本当に最後まで相手の矢印を見るところだったり、ふたりを参考にしていると、良いイメージで試合に入れるんです」
【動画】寺田監督らからのメッセージ
 そして福島で14番を選ばせてもらったのは、やはり“ケンゴさん”が長年背負った番号だから。

「フロンターレで育った以上、やっぱり誰もが憧れる番号ですし、僕はケンゴさんを見てサッカーやってきたので、今はフロンターレでヤスくんが付けていますし、14番を付けられる人って凄いなって思いながら、(移籍時に)希望の番号を聞かれ、空いているのかも調べずに14番をお願いさせていただいたら、付けさせてもらうことができました」

 中村憲剛、脇坂泰斗、大島僚太…そんな名手たちの系譜を継いでいると言える、大関のプレーはやはり注目したくなるものがある。
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 今季、岐阜との開幕戦(●1-4)に先発出場した大関は、2節の宮崎戦(〇2-1)ではプロ初ゴールを奪ってみせた。

 1点リードで迎えた38分、敵陣のちょうど真ん中あたりで後方からのパスを引き出すと、左足で丁寧にトラップしながらターン。そのまま持ち運び、数人のDFをいなしながら、右足でコースを狙ってネットを揺らした。

「開幕戦は自分たちのサッカーはできたんですが、想像以上に点差も開きました。でも(寺田)周平さん(監督)がぶれずにやっていこうとの意思表示をしてくれ、チーム全員が自信を持って宮崎戦に臨めたなかで、今年、自分自身が目標にしているゴールに向かうプレーを出すことができました。初ゴールということもあって本当嬉しかったですね」

 昨季、川崎で試合に絡めなかった悔しさも込められていたのだろう。大きくジャンプしながら両腕で力強く作ったガッツポーズは心を震わす熱があった。

「ただ、ゴールパフォーマンスがめちゃくちゃダサいって言われました(笑)。初ゴールおめでとうより、パフォーマンスをどうにかした方がいいっていうメッセージばかりで(苦笑)。両足で飛んで、両腕、両足、すべてが伸びちゃって。でもあれは自然で、もう嬉しすぎて気持ちが爆発しちゃったんです。

 僕も本当はもっと格好良くするつもりだったんですよ。ただ、自分でも映像を見返したらひどいな、ダサいなと(笑)。ユースの時はゴールを取ってもスカシていた分、気持ちを前面に出すゴールパフォーマンスに慣れていなくて、ああなっちゃったという形でした。でもプロ初ゴールだから仕方ないですよね。ケンゴさんもメッセージをくれて嬉しかったです」

 いきなり結果を残し、勢いに乗れたのだろう。その後、大関は4つの得点を重ねているが、中でも13節の奈良戦(〇2-1)のゴールが印象に残っているという。

 1-0の64分、相手ペナルティエリアの右脇で、後方からの縦パスを受けた大関は前に大きくコントロールをミスしてしまう。しかし、DFがカバーに走ってくるなか、諦めずに追いかけてゴールラインギリギリでスライディングでマイボールにすると、味方とのワンツーでエリア内に切り込み、相手と競りながら左足で強烈なシュートを突き刺した。ゴール後の寺田監督との熱い抱擁も印象的だった。
「裏に走って良いボールを出してもらえたんですが、トラップミスでライン際にいってしまって、スライディングして相手より早く立ち上がって決めることができました。あのゴールはユースの頃や、去年だったらできていなかったはずです。

 自分はもともとゴールよりパスに価値を見いだすタイプで、味方の得点をアシストするほうが好きだったんですが、トップチームに上がってからは結果がものを言うと学びました。ゴールに向かっていくプレーが評価される分、ゴールに対してのアクションを増やしたかった。だからこそユースの頃の自分だったらあのシーンで多分、裏に走ってなかったと思います。でもあの時は、出す側ではなく、受け手になって走ることができ、スライディングでボールを残した面でも、パワフルさで成長も示せたと思います。

 世界を見ても中盤で点を取れる選手が本当に増えていますし、改めて結果を残せないと評価してもらえない。インサイドハーフのポジションはなおさらゴールに関わるプレーが大事だなと考えています」

 その進化はさらに速度を増していきそうだ。

第3回に続く

■プロフィール
大関友翔 おおぜき・ゆうと/2005年2月6日、神奈川県生まれ。真福寺FC―FC多摩ジュニアーFC多摩Jrユース―川崎U-18―川崎―福島。新時代の司令塔。トップ昇格した川崎ではなかなか出番を掴めなかったが、今季レンタルで加わった福島では中盤の欠かせない存在として活躍を続ける。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

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