歴史上、ひとりみだったのはどんな人々か
現代日本で「非婚」の人が増えているのは、一つには日本全体が貧しくなっていることがあるでしょう。
それとは別に家族というものの概念が変化し、非婚のまま「事実婚」を選ぶカップルや、同性婚を認められていないがゆえに結婚という手段をとれないカップルが少しずつ増えてきたということもあるかもしれません。
さらに、本人に結婚の意志がなく、非婚でいる場合もあるでしょうし、結婚したくても出会いがない、できないということもあるでしょう。つまり同じ「非婚」といっても、現代のそれは、前近代と比べると、個々人による事情の幅が大きいということが一つ言えます。
にもかかわらず、本人の意志とは関係なく、ある程度の年齢になると、親や世間からの「結婚」のプレッシャーは、まだまだ根強いものがあります。そもそも「少子化」を問題視する国の姿勢自体、「非婚」を否定し、「結婚」へのプレッシャーにつながっています。非婚のまま、子を持てる制度や環境が整っていればともかく、今の日本はそうではないので、とくに子を持つことは、どうしても結婚が前提となってしまうのです。
そうした現状を歴史の中で位置づけ、未来を予測するためにも、注目したいのが「ひとりみ」でいた、歴史上、そして歴史を反映する物語上の人々です。
そこには、先述のように社会的地位の低さゆえ、貧しさゆえにひとりみでいざるを得なかった人々のほか、宗教的な立場や、職業上ひとりみでいることを強いられる人々、性的な嗜好などからあえてひとりみを選んだ人々、さらには後世の偏見によって「あの人はあんなだから、ひとりみで生涯を終えたのだ」と決めつけられた伝説上のひとりみの人もいます。
彼らの生まれた背景や、思想や嗜好を見ていくことで、長い日本の歴史におけるひとりみの人々がどんな思いで生きてきたのか、また、世間はひとりみの人をどんな目で見ていたのか、結婚とは、家族とは一体なんなのかが見えてくることでしょう。
文/大塚ひかり 写真/shutterstock
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『ひとりみの日本史』(左右社)
大塚ひかり
2024年4月30日1,980円(税込)232ページISBN: 978-4865284089
実は独身が大半だった!
結婚は特権階級の営み、日本の歴史は「ひとりみ」の思想に貫かれている——
卑弥呼から古事記の神々、僧尼、源氏物語の登場人物、大奥の女性権力者など、古代から幕末まで、多様なひとりみたちの「生」と「性」を追う。
「独身」や「結婚」、「家族」の概念を覆す、驚きの日本史!
【本書の目次】
はじめに 日本の歴史を貫く「ひとりみ」の思想
第一章 〝独神〞というひとりみの神々がいたーー太古の日本の家族観
第二章 卑弥呼は「ひとりみ」か?ーー即位前は、夫も子もいた古代の女帝
第三章 結婚を制限されていた内親王と、僧尼
第四章 財産が少なすぎても多すぎてもひとりみーー「わらしべ長者」と院政期の八条院
第五章 職業ゆえにひとりみーー大奥の最高権力者「御年寄」
第六章 大奥における将軍は「ひとりみ」に似ている?
第七章 自分の人生を生きたいからひとりみーー結婚が権力の道具だった時代の「結婚拒否」の思想
第八章 家のためにひとりみや結婚を強いられるーー才女・只野真葛(工藤綾子)の「ひとりみ感」
第九章 ケチゆえにひとりみ 「食わず女房」を求めた男
第十章 幕末にはなぜ少子化が進み、ひとりみが増えたのかーー実は「子沢山」を嫌っていた江戸人
第十一章 人気商売ゆえにひとりみ
第十二章 性的マイノリティゆえにひとりみ
第十三章 犯罪とひとりみ
第十四章 後世の偏見でひとりみにさせられた女ーー小町伝説とひとりみ女差別
第十五章 なぜ『源氏物語』の主要人物は少子・子無しなのかーー人間はひとりみを志向する
おわりに 『源氏物語』でいちばん幸せなひとりみ、源典侍
『ひとりみの日本史』索引式年表、参考文献