日本アニメーション史上に残る大傑作『火垂るの墓』が6年以上TV放送されない理由を、高畑勲監督の演出スタイルから探ります。



画像は『火垂るの墓』ポスタービジュアル (C)野坂昭如/新潮社, 1988

【画像】えっ、信じられない… こちらが実は同時上映されていた「ジブリ作品」です

清太と節子の兄妹に待ち受ける悲劇

「Netflix」は2024年8月20日、高畑勲監督作品『火垂るの墓』を9月16日より独占配信することを発表しました。ただしこれは、日本と米国を除く190以上の国や地域での話です。『火垂るの墓』は「スタジオジブリ」を代表する名作アニメーション映画のひとつですが、日本では今のところDVD、Blu-rayを購入するか、TV放送を待つしか方法がありません。

 ところが、そのTVも6年以上放送されていないのです。その要因のひとつとして、視聴率の低下が挙げられるでしょう。公開当時、『火垂るの墓』は『となりのトトロ』との併映という形式を採用しました。『となりのトトロ』は現在に至るまで高視聴率を記録していますが、その一方で『火垂るの墓』は1ケタ台に低迷しています。

 2010年代以降で、TV放送されたときの視聴率を比較してみましょう。

『火垂るの墓』
2013年11月22日(9.5%)
2015年08月14日(9.4%)
2018年04月13日(6.7%)

『となりのトトロ』
2010年07月23日(20.2%)
2012年07月13日(18.3%)
2014年07月11日(19.4%)
2016年11月04日(14.2%)
2018年08月17日(14.0%)
2020年08月14日(16.5%)
2022年08月19日(13.7%)

 1989年8月11日に初めて『火垂るの墓』がTV放送されたときは20.9%の視聴率を叩き出しましたが、近年は苦戦を強いられています。一方『となりのトトロ』は安定して2ケタをマークし、ほぼ2年おきにTV放送されていることが分かります。

 では、他の高畑勲作品の視聴率はどうなっているでしょうか。これも2010年代以降に絞って確認してみましょう。

『おもひでぽろぽろ』
2013年11月29日(9.3%)
2015年8月21日(9.3%)

『ホーホケキョ となりの山田くん』
※2010年以降の放送はナシ

『平成狸合戦ぽんぽこ』
2013年7月12日(13.2%)
2015年8月28日(7.3%)
2019年4月5日(6.0%)

『かぐや姫の物語』
2015年3月13日(18.2%)
2018年5月18日(10.2%)

 高畑勲監督の遺作となった『かぐや姫の物語』は、2015年に18.2%の高視聴率をマークしていますが、総じて1ケタ台が目立ちます。

 もともと高畑勲監督は、『アルプスの少女ハイジ』や『母をたずねて三千里』の頃からリアリズム描写を得意とするアニメーション作家であり、宮崎駿監督のように派手なアクション演出を全面に押し出すタイプではありませんでした。金曜夜9時の「金曜ロードショー」という枠において視聴者が求めているのは、『天空の城ラピュタ』のようなアドベンチャー・ロマンに心を踊らせるような同時視聴体験であって、緻密で自然主義的な高畑演出に刮目することではないのかもしれません。

 特に強烈な戦争体験をつづった『火垂るの墓』は、今では「トラウマ映画」の代表作のような扱われ方をしています。ふたりの兄妹の哀しい結末に、視聴者は大きなショックを受けました。そこに描かれているのは、思わず目を背けたくなる戦争の傷跡です。週末の金曜夜9時に観たい内容ではないのでしょう。

 それでも『火垂るの墓』が、今後も語り継がれるべき、日本アニメーション史上に残る大傑作であることは間違いありません。この作品には「2度と観たくない」と思わせるほどの、容赦のない現実と徹底したリアリズム描写にあふれています。