ラブコメにおいて「性」は重要なテーマで、コメディリリーフでもあります。『めぞん一刻』においても、実に丁寧に描かれていたわけですが……原作マンガ版を読み返してみると、意外ながらも実に「らしい」展開が見られました。



そもそも未亡人という設定も、ラブコメとしてはなかなかパンチが効いていますね。1/7スケールフィギュア「音無響子 with 惣一郎さん」(PROOF) (C)高橋留美子/小学館

【画像】ひと目惚れ待ったなし こちらが実写ドラマ版の「響子さん」です

五代くんはけっこう積極的だった

『めぞん一刻』の主人公である「五代祐作」は、周囲の女性からは気になる存在だったようで、ヒロインの「管理人さん」こと「音無響子」からは、「七尾こずえ」をはじめとする女性関係をしばしば嫉妬されています。しかし肝心なところで押しが弱く、深い関係にはなかなかなれずにいました。管理人さんとの結婚前、結局、五代くんは筆をおろせたのでしょうか。

 はっきり言っておきますが、五代くんはスケベです。第1話から「四谷さん」と一緒に、壁に空いた穴から「朱美さん」の艶姿をのぞき込み、穴を修繕している管理人さんのジーンズ姿を後ろからじっくりと眺めています。若い浪人生なので年相応といってしまえばそれまでですが、宴会から逃げるため押し入れに閉じこもったのに「管理人さんがストリップやってるー!」という声を聞いてフスマを開けるのですから、スケベ根性は人一倍あるといっても過言ではないでしょう。

 しかも五代くんは一見すると奥手に見えますが、けっこう積極的なところもあり、第2話では屋根の上で寝入ってしまった管理人さんに抱き着いてキスをしようとしています。なかなかのスピード感です。なおこのときは、管理人さんの「総一郎さん……」という寝言を聞いてショックを受け、断念しています。

 第7話で五代くんは、管理人さんが未亡人だと知って大きなショックを受けました。続く第8話では、夢の中に裸の管理人さんが出てくるなど妄想が生々しさを増しています。おそらくは、これまではどこか「すごく綺麗な女性」止まりだった管理人さんへの印象が、「かつて夫がいた経験済みの女性なのだ」へと変化して、生身の女性として見る意識がより強まったのではないかと思われます。

 管理人さんが結婚していた当時の写真を目にした際には、その夫に頼り切った笑顔に「あんな笑顔 見たこと無かった」と愕然とし、そして第9話で五代くんは、酔っぱらった際に「音無響子が好きであります!」と叫び、管理人さんを抱えて部屋に連れ込むという狼藉を働き、そのまま寝てしまう失態を演じます。翌日からは管理人さんと喧嘩を始めてしまい、いよいよ「三鷹さん」の登場を迎えるのでした。



決して草食系ではない男、五代裕作。『めぞん一刻(新装版)』第2巻 著:高橋留美子 (小学館)

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こずえちゃんには手を出さなかった五代くん

 三鷹さんの登場で人間関係は一気にややこしいことになります。さらに、五代くんも大学生となり、ガールフレンドができます。そう、元バイト仲間の七尾こずえちゃんです。何のかんので五代くんはけっこうモテていますね。

 そしてここから数年間、こずえちゃんとはいい感じのお友達として、管理人さんとはラッキースケベ含め寸止め状態が続きます。こずえちゃんは五代くんを本気で狙っていた節があり、家族にも紹介していました。しかも一時は週2で五代くんがこずえちゃんの実家にお邪魔して夕食をともにしているので、家族も「ただの男友達じゃないな」と感づいていたことでしょう。

 そうした経緯をたどりながらも、結局、五代くんの本命は管理人さんだったので、こずえちゃんの努力も無駄に終わってしまいましたが、ここでもし五代くんがこずえちゃんを狙っていたら、おそらく口説き落とせていたのではないでしょうか。

 なぜ、ここまで五代くんは管理人さんにもこずえちゃんにも手を出せていないのか、これは結局のところ「女性経験がないから」に尽きるでしょう。特に管理人さんは未亡人で「すでに大人の女性である」ことが確定しているため、「心の世界のその先」を知らない五代くんでは、最後の心理的な壁を突き抜けるのは難しかったのではないでしょうか。

 その壁を五代くんはどのように破ったのか、答えは「坂本くん」にありました。

「誰?」と思う方もいるかもしれませんが、作中にひんぱんに登場していた、五代くんの悪友です。坂本くんは五代くんに先んじて社会人になっていたのですが、コミックス第10巻「『犬が好き』PartII」にて給料が出た際に、なんと五代くんに「トルコ風呂」を奢っているのです。現代でいうソープランドですね(注:コミックス新装版では「ソープランド」に修正)。ラブコメマンガでこういう脱童貞ってありなんですかね?

 こうして五代くんは管理人さんともこずえちゃんとも初体験を迎えることなく、大人になったのです。坂本くんがこのとき奢る気になったからこそ、五代くんは「大人の男性」として初めて管理人さんと対等の関係になれたのではないでしょうか。

 坂本くんはそれほど印象が強いキャラではありませんが、『めぞん一刻』の物語を決定的に動かしたキーパーソンとして、注目されるべき存在なのかもしれません。