『機動戦士ガンダム』は、主人公のアムロだけでなく、他キャラの成長過程も感じられる群像劇です。それはカイ・シデンも例外ではなく、アムロとの友情を育む様子もポイントといえるでしょう。



いろんな意味で「いいキャラ」になりましたよね。『機動戦士ガンダム デイアフタートゥモロー ―カイ・シデンのメモリーより―』第1巻 著:ことぶきつかさ/原作:富野由悠季/原案:矢立肇(KADOKAWA)

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お互いに認め合っているアムロとカイ

 1979年から1980年までTV放送されたアニメ『機動戦士ガンダム』は、「ガンダム」シリーズの1作目として今でもファンのあいだで語り草となる重要な作品です。主人公の「アムロ・レイ」がガンダムのパイロットとして活躍し、人としても成長していく過程が描かれており、アムロの成長物語といっても過言ではない作品でしょう。

 成長したのはアムロだけではありません。たとえば、第2話でケガ人を差し置いて、ひとりでエレベーターに乗ろうとしていた軽薄な男「カイ・シデン」は、序盤で見せた様子を考えると、ラストのジオン軍との最終決戦では見違えるほど頼もしく成長しています。そして、回を増すごとにアムロとも、戦場にくり出した仲間ということもあって徐々に友情を築いていくのでした。

 もともとは軍人ではない、ましてや成人もしていないアムロがなりゆきでガンダムのパイロットになったのと同じように、カイも大型特殊車両の免許を保有していることから「ガンタンク」「ガンキャノン」のパイロットとして戦うことになります。

 カイは憎まれ口をたたくクセがあって「ひと言多い」キャラであるため、アムロはカイに対して少なからず苦手意識があった様子です。第27話でカイが「ホワイトベース」のクルーを辞めて下船する際、アムロはカイを引き留めて「僕はあなたの全部が好きというわけではありません」と発言しています。しかし、続けて「でも、今日まで一緒にやってきた仲間じゃないですか」とも言っているため、アムロはカイに苦手な部分を感じつつも、ともに戦場に立ってきた仲間として認めていることがわかります。

 さらにアムロはカイの今後を心配して、売れば幾ばくかのお金になる、自身の工作用具をカイに譲っていることから、カイに対する思いは決して弱いものではなかったことがうかがえます。

 その際にカイも「俺だってお前の全部が好きってわけじゃねえけどよ」「恩に着るぜ」と、カイらしく回りくどい言葉で礼を述べていました。やはり命をかけて一緒に死線をくぐり抜けてきた同士ともなると、お互いに苦手なタイプであっても、情が湧いてくるものなのでしょう。

 個人的には、アムロが恋をした「マチルダ・アジャン」中尉に対し、カイが「一緒に写真を撮ってほしい」と伝えた結果、アムロはじめ男性クルーたちを巻き込んでの写真撮影会となり、その結果として彼女の写真が手に入ったことも、アムロにとってカイの評価が上がったできごとなのではないかと感じています。マチルダと一緒に撮った写真を目にしたアムロの喜びようを見れば、きっとカイにも感謝しているはずです。



『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』第19巻 著:安彦良和/原案:矢立肇、富野由悠季/メカニックデザイン:大河原邦男 (KADOKAWA)

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信頼し合った大切な仲間…かと思いきや、『THE ORIGIN』では不良のような絡み方も

 その後、カイはホワイトベースに戻ることになり、引き続きガンキャノンのパイロットとして活躍し、アムロもニュータイプとしての才能を開花させて大きな戦果を挙げていきました。もはやホワイトベースには欠かせない存在となり、アムロはもちろん、カイにも頼もしさを感じるシーンが数多く描かれています。

 特に最終話である第43話では、宇宙要塞「ア・バオア・クー」での大決戦で、「ジオン軍」の猛攻の前に苦戦するホワイトベースを援護しながら、仲間の「ハヤト」を叱咤したり、自ら率先して白兵戦に臨んだりするカイの姿が描かれています。憎まれ口が多いキャラであるものの、こうして振り返ると人を思いやる気持ちがあり、アムロとも協力してジオン軍に立ち向かう姿は立派な軍人でもあり、魅力的な存在といえるのではないでしょうか。

 もちろん、アムロが仲を深めたのは、カイだけに限った話ではありません。だとしても、ひねくれ者のカイとも友情、あるいは信頼関係を育んだのは、それほどアムロには不思議なひきつける力があったのでしょう。

 ちなみにマンガ版『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の過去編、およびアニメ版でのカイは、アムロやハヤト、「フラウ・ボゥ」の、高校のクラスメイトとして登場します。留年し年上の同級生として登場するカイは、たびたびアムロにからむ、近所の不良のような姿で描かれ、ました。

 改めて『機動戦士ガンダム』を視聴し直す際は、アムロとカイの友情物語として観てみると、新たな発見があるかもしれません。