「AIと結婚して何が悪い?」技術革新は、変化を面白がれるオスに「ユートピア」をもたらすのか【和田秀樹×池田清彦】

少子化・未婚化が喫緊の問題とされる日本社会。テクノロジーが進化し、男女関係を営む上で人間よりAIのほうがいいという人が一定数出てくるのも必然かもしれない。果たしてそうした社会が実現した先に待ち受ける未来とは…。

医師・和田秀樹氏と生物学者・池田清彦氏による対談本『オスの本懐』(新潮社)より一部抜粋・再構成してお届けする。

人間よりAIと結婚したい男が増える?

和田秀樹(以下、和田) AIがついた車椅子に乗って、どこへでも一人で出かけられる日がくるかもしれません。最近では車の自動運転が実用化される方向で、運転席に座っているだけで目的地に連れて行ってくれたり、道路に子どもが飛び出してきたら急ブレーキをかけて避けたりするくらいのことはできるようになりつつあります。もっと頭を柔軟にすれば、これだけの超高齢社会なのだから、その技術を車椅子に搭載したって構わないでしょう。

池田清彦(以下、池田) AIというのは、人間自身の機能を拡張させるんだよね。パソコンでいうと外付けハードディスクで、AIを利用することで人間の脳の容量が少しばかり増えるわけだから、記憶のような分野をAIにカバーしてもらえばいい。頭がボケて毎日同じ料理をつくってしまうなんて問題も、AIが「昨日もつくりましたよ」と教えてくれて、別の献立やレシピを提案してくれる。で、それをつくるためにはスーパーで何を買えばいいのかも教えてくれる。老いて一人暮らしでも困らない、そういう時代がくると思うよ。

和田 AIによって孤独な老人が減るかもしれません。すでに会話をしてくれるロボットはありますが、もっと精度が上がれば、こちらの話に寄り添ったり心安らぐことをいってくれたりするようになるでしょう。

池田 だけど、そこまでいくともう人間はいらなくなるな。昔どこかで書いたけど、いずれ人間よりもAIを搭載したロボットに恋するやつが出てくるよね。

和田 間違いないでしょうね。ロボットというとどうしても機械の体を連想しますが、3Dプリンターを使うことで人間と見た目が変わらないロボットをつくれるようになっています。美人女優や人気アイドルに姿を似せたロボットもつくれてしまうわけで、そうなれば少子化はもっと進みますね。このロボットはどんな女性よりも優しいでしょうから。

池田 何かいっても、いちいちセクハラだと怒られない(笑)。そのうちキャバクラとかホステスが接客するような店は潰れるんじゃないかね。だって、AI搭載のロボットホステスがこれまでの客の傾向を学習して、相手の好みに合わせて会話するなら客も楽しいし、そのうえ見た目も美人でしょ。しまいにセックスまでできるようになったら、「オレは人間の女よりAIと結婚したい」という男も出てくるよね。

和田 確実に出てくるでしょうね。

(広告の後にも続きます)

人間よりもAIやロボットと付き合うほうがストレスフリー

池田 セックスの面では、AIをパートナーに選ぶ男は現実に増えているようです。すでにアメリカでは「セックスボット」が実用化されているし、中国でも「AI搭載ラブドール」という精密なダッチワイフが人気だとニュースになっていた。前にセックスボットをみた時はまだそれほどではなくて、いくつかの種類の中から客が選ぶというものだった。それでもSM専用セックスボットというのもあって、驚いたけど(笑)。この流れは当然、もう少ししたら日本にもどんどん入ってくるでしょうね。

和田 日本にもそっち方面の技術はありますからね。何かの雑誌でみたのですが、かつてのダッチワイフはいかにも人形のような顔をしていたのが、今では本物の人間みたいにリアルできれい。処分できなくて家族みたいに一緒に暮らしている人もいるそうです。

池田 それにAIを組み込んだら、ほとんど人間だよね。しかも、ディープラーニングで相手の好みをどんどん学習するから、その人にとってはルックス、内面ともに魅力的で完璧なダッチワイフが出来上がるわけだ。

和田 AIの技術がそこまで進んだら、当たり前のように労働力になります。医療や介護の現場でAIが活躍し、家事もロボットとAIがこなしてくれるわけですから、家族みたいな存在になる。そうなると、今みたいなポリティカル・コレクトネスでがんじがらめになった息苦しい社会も変わるのではないでしょうか。AIロボットが相手なら、オスが輝くとかメスが輝くとか、性別を意識した話もなくなって、どんな本音をぶつけても平気という世の中になるかもしれません。

池田 現代人のストレスのほとんどは人間関係だから、AIやロボットと付き合うほうが、はるかにストレスがなくていいかもしれないですね。じいさん、ばあさんになるまで喧嘩ばかりの夫婦もいるけど、それならさっさと離婚してAIと一緒に暮らしたほうが、はるかに楽しく快適に生活できるパターンだってある。

和田 おつれあいを亡くした高齢者がAIと一緒に暮らしてみたら、「こっちのほうが断然いい」となるかもしれません。

池田 だって、ある意味ではユートピアですよね。

和田 ただ日本では、そういうテクノロジーを受け入れるかどうかで、大きな断絶が生まれそうです。やっぱりAIではなくて生身の人間じゃないとダメだとかいって、倫理や道徳を押し付けようとしたり、AIを夫や妻のようにして生活するなんてまるでディストピアだとか文句をいう人が現れそうです。