近年、日本の男性は元気がない。コンプラにポリコレ、健康常識に老後設計……時代の変化と社会の要請に揉まれ、オスとして大切な何かを失いつつあるらしい。
オスがオスらしく生きるためにどうあるべきか、医師・和田秀樹氏と生物学者・池田清彦氏が本音で語り合った新書『オスの本懐』(新潮社)より一部抜粋・再構成して「結婚できない男」についてお届けする。
歳を重ねたときに女性に求めるもの
和田秀樹(以下、和田) 私ぐらいの年齢になると、女性に対して一目で惚れるというよりも、気が合うかどうかを重視する人が多い気がします。つまり、一緒にいて楽しい相手。最近、医学部の同窓会があって、私は同期のなかでも落ちこぼれのはぐれ者だから、長いあいだ参加していなかったのが、「もう還暦過ぎたし、たまにはいいか」という軽い気持ちで行ってみた。すると、かつて教授に昇進したとか偉ぶっていた「勝ち組」の一人がすっかり丸くなって、いろいろと本音を語るようになっていたんです。
池田清彦(以下、池田) わかる、そういう年代なんだな。
和田 そこで多かったのが離婚や再婚の話題。ある医学部教授になった男は2回離婚した後でまた再婚して、相手は高校の同級生。今、すごく幸せだとのろけていましたが、似たような話を他にもたくさん聞きます。やっぱり、見た目や若さより気が合うことのほうが優先されるようになるものですね。
池田 結局のところ、人間の場合は夫婦になるのに「条件」はあまり役に立たなくて、「この人となら上手くいくんじゃないか」というインスピレーションのほうが大事。結婚する時に僕は貯金ゼロで、就職せず大学院に進んだから収入もゼロ、そんな無茶な条件の相手とよく結婚しようと決断したもんだよね。学生にこの話をすると、みんな「勇気あるなあ」と驚くよ。
和田 学生はまだ子どもだからわからないでしょうけど、それが愛というものでは。
池田 今もいちおう上手くいっているから、女房は男を見る目があったということで(笑)。
和田 そう考えると、マッチングアプリでは日本のオスは一向に元気にならない。
池田 現在の収入や趣味をデータでみても相手と気が合うかどうかはわからないし、先の人生がどうなるかもわからない。条件を支えるものなんて、あっという間に変わってしまうからね。そもそも人の一生は偶然の積み重ねで、その時は一番いい条件だと思ったとしても、その後どう転ぶかなんて誰にもわからないよな。
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結局は直感に賭けるしかない
和田 そうですね。条件を理由に交際し始めるのは、その条件が満たされなくなった場合はお別れするかもしれないということでもある。それに比べて「気が合う」はそうそう変わらないものだと思います。
池田 やっぱり自分が一番面白いと思う相手、理屈ではいえないけど気に入った、この人となら上手くいくんじゃないか、そういう直感に賭けてみたらいいよ。あなたの結婚相手に相応しいのはこういう人だとか、世間はとかく「枠」にはめようとするけど、そんなものに惑わされていたら幸せにはなれないと思うね。
和田 おっしゃる通りで、「歳を重ねたらこうしないといけない」という枠組みもナンセンスです。リタイア後のように、世間の「枠」が外れるタイミングというのは逆にチャンス。それまで我慢してできなかったこと、枠の内側に留まっていなければと思って諦めていたことをどんどんやる。熟年離婚もその一つです。
池田 さっきからそこを強調するね。
和田 池田さんのように、一生涯のパートナーと出会える人ばかりじゃないですからね。これからもずっと一緒にいたいと思える相手だったらそれは本当に素敵なことですが、定年を迎えて一日中顔を突き合わせているのはつらいとか、この人の介護をすることを考えると暗い気持ちになるというような人は、その思いを抑え込むのではなくて、自分の気持ちに正直に生きてみていいと思うんです。
池田 年老いたら、なにも無理して嫌なことをする必要などないと。
和田 「枠」がなくなるわけですからね。定年後は第二の人生とよくいわれますが、今や寿命が延びて一度目の人生ぐらいの長さになりました。それまで仕事や子育てでやりたいことを我慢してきたのに、それと同じほどの年月をさらに耐え忍んで過ごすなんて馬鹿げていませんか。
たとえばどうしても浮気がやめられない男性がいたとして、還暦過ぎても浮気がやめられないなら、残りの人生は特定のパートナーをつくらず、「つまみ食い」するほうが幸せでしょう。老いても芸者遊びを続けた永井荷風のように……。