現役世代が後期高齢者の医療費の大部分を負担していることをご存じだろうか。高齢者たち自身は医療費全体の1割程度しか負担しておらず、毎年、現役世代から多額の“支援金”が送られている。
その額は6.6兆円を突破し、過去最大を更新した。今年、団塊世代のほとんどが75歳になることでさらに増加していく見込みだ。「もう限界…」と現役世代が声をあげても、政府は「自然増であり、不可抗力」と繰り返すばかり。しかし、それは本当に「仕方ない」のだろうか。
現役世代は高齢者に7兆円近くの支援金を送っている
私たち現役世代の給与から天引きされ高齢者医療へ使われている“支援金(交付金)”が6兆6989億円となり、2年連続で過去最大を更新したことが厚生労働省から8日発表された。(1)
これは東京オリンピック4回分、国の防衛予算にも迫る金額といえば、どれだけ莫大であるかが伝わるのではないか。
政府はこれまで「社会保障費は高齢化により自然増しており、現役世代の負担増は不可抗力だ」と説明してきたが、そうとは限らない。
政府はこうなることをわかっており、これまでいくつもの打開策を議論してきた。それにもかかわらず医療業界あるいは左派団体による抵抗に忖度し、やるべきことを先延ばしにしてきたのであれば、社会保障費の増大は“人災”とも言えるのではないか。
例えば会社が500万円の人件費で雇用するとき、団塊世代が働き手だった50年前の労使折半分を含む保険料は約15%で手取り425万円となる。これと比べ2023年時点の保険料は約30%で手取り350万円となり、年間75万円もの可処分所得が減少した。さらに1989年から導入され、現在では10%に上げられた消費税を含めると、年間100万円近くの差となる。
これでは家族計画や資産形成にも支障が生じ、少子化が進むのは当たり前。
子どもや孫世代がさらなる負担増に耐えられるはずもなく、私たち現役世代が高齢者になるころには医療制度そのものが破綻、あるいは形ばかりで中身を伴わないものとなっていく可能性も。「高齢世代も社会保険料は払ってきた、だから現役世代も耐えるべき」という意見は的外れなのだ。
もはやこのままの社会保障を維持することこそが、現役世代の将来における最大のリスクなのではないか。
現役世代の負担はもう限界。そうであれば棚上げされてきた医療改革を推進し、効率化によって支出を減らしていくしかない。とはいえ公的医療の見直しに対する “恐れ”は根強く、なかなか改革を求める世論は高まってきていない。
そこで次のページでは、医療費がどれだけ高齢者を含む国民の生活や健康と関係のないムダと非効率に浪費されているか、そして私たち現役世代だけではなく子どもや孫たち将来世代の可能性まで奪う原因となっているかを示していく。
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高齢者の負担を現役世代と同じにしても健康に影響はない
全国の75歳以上の高齢者の医療費は、後期高齢者医療制度という予算の枠組みから支払われている。
総医療費のなかで後期高齢者医療費が占める割合は約4割。およそ20兆円の内訳をみると窓口負担1.6兆円、保険料1.7兆円であり、ここまでが後期高齢者自身が支払っている医療費だ。
残り16.7兆円のうち約7兆円の“支援金”はなぜか現役世代の社会保険料の中から拠出されている。残りの約10兆円は消費税や市民税や所得税、あるいは赤字国債を原資とした公費支出。つまりその大部分を私たち現役世代と、子どもや孫世代が負担しているということになる。(2、3)
それらが本当に社会に必要なものであればやむをえないが、実際には高齢者たちの生活や健康に貢献していないムダや非効率がたくさんある。
その最も代表的なものは「残薬問題」で、受け取ったものの使われない内服薬や湿布薬に多額の医療費が費やされている。2015年の厚労省の研究では患者全体で8744億円とされ(4)、現在ではおよそ1兆円が費やされていると試算する研究者も。
これらのムダを生む背景には、後期高齢者4人中3人の医療窓口負担が1割、言い換えれば9割引の“年中大安売り”によって過剰に医療需要が掘り起こされていることもある。使うつもりがない薬でも、安いから言われるままに受け取る。念のためで多めにもらい、使わず捨てたり仲間に配ったり…。
実際に国内の統計調査では、医療費が7割引から9割引になると約10%医療需要が増加し、それまでは医者に見せなかった症状で受診するようになるとわかっている。
このとき増加するのは主に自活できている比較的健康な高齢者の外来受診。「3割負担になると同居する現役世代の負担が大きくなる」と懸念されることもあるが、長期的には不要不急の受診が減るという形で落ち着くだろう。
一方で窓口負担の変化によって重症者部分といえる入院治療の需要は変化しない。これはおそらく高額療養費制度のためで、医療費負担が過大とならないよう所得に応じた1カ月ごとの支払額に上限が設定されているからである。
また「窓口負担が小さいほうが病気の早期発見につながり、重症化を防ぐことで総医療費の削減につながっている」という仮説は根拠に乏しく、窓口負担が増えても血圧や血糖値あるいは死亡率に目立った変化はなかった。(5、6)
このような研究によって、高齢者の自己負担割合が高くなっても、健康に対する大きな悪影響はないということがわかってきているといえる。
以上からある程度窓口負担率を上げたほうが、本来必要ないはずの過剰医療を防ぎ、医療人材の不足や長すぎる病院待ち時間などを解消し、年齢を問わず本当に医療を必要としている人がよりスムーズに適切な医療にたどり着くことができるようになる。このとき自明のことではあるが、現役世代の窓口負担は変わらず、高齢者の医療アクセスが制限されるわけでもない。
では最後に後期高齢者医療費を7割引とした場合、どれだけ私たちの手取りが増加するかを見ていく。