医療改革で、1世帯20万円の手取りアップも
現行制度が40年以上続くなか見落としがちだが、海外先進国と比べても、9割引でフリーアクセスの医療というのは明らかに大盤振る舞いだ。
事実として平均総資産額は60代よりも80代のほうが多く、これは手厚い医療年金の諸制度によって老後生活で資産を使う機会がほとんどないことを示している。そもそも総人口の3割を占める高齢者すべてを“公助が必要な弱者”と位置付けるのはかえって不自然で、資産の流動性を阻み貧富の差を固定化する一因となっている。 (7)
これらを鑑みて資産課税や金融所得課税なども検討されているが、増税による予算確保はかえって医療改革を停滞させ解決を先延ばしにしかねない。せっかく形成した資産であれば社会保障のムダや非効率のために徴税されてしまうより、自分自身の生活や健康のために必要なものを選んで使うほうがずっと納得感があるのではないか。
また、ほんとうに困窮している無年金高齢者などは現状でも生活保護を受給している。医療費は無料なので結局は資産があってもなくても医療アクセスは保たれるだろう。
以上をふまえ仮に全年齢の窓口負担を原則3割とした場合、医療需要抑制効果も含めておよそ5兆円の社会保障費が削減できる。また延命治療に費やされている推計3兆円のうち、本人と家族が望まないものの一部減少や、その他医療改革を含めると、現役世代の給与から天引されている “支援金” 約7兆円は廃止することすら可能だ。
もしも約7兆円の“支援金”を廃止し社会保険料軽減を行なうのであれば、単純化して現役世帯数で割ると年間約20万円もの可処分所得増となる。
その他の医療改革に関しても、例えばリフィル処方箋の推進、海外先進国並みへ医薬品販売規制の解禁、訓練された看護師への医師独占業務移行、高額な医療技術に対する保険適用の見直し、それに伴う民間医療保険の役割増大など、医療費削減の議論はこれまで政府内で無数に行なわれてきた。
これら医療改革を推進させるためにも「社会保障費負担はもう限界」「“支援金”だけでなくすべての負担増にNO!」の声をあげて、政府の不作為を許さないという世論が必要だ。
医療制度といえども私たち現役世代の給与から税金同様強制的に徴収される社会保険料を原資とした、政治家や業界団体の意向に左右される行政制度のひとつにすぎない。医療の専門家でなくとも、税や保険料の使い方を論じる資格はだれにでもある。
社会保障は日本における最大の公的支出であり、小さな行政改革でも大きな予算削減につながる。その中で高齢者医療費自己負担の3割化と、“支援金”廃止による手取り賃金UPは、まさに経済と社会問題解決のセンターピンといえるだろう。
<参考文献>
(1) 令和4年度後期高齢者医療制度(後期高齢者医療広域連合)の財政状況について – 厚生労働省 (2024年8月)
(2) 令和3(2021)年度 国民医療費の概況 – 厚生労働省
(3) 全国高齢者医療主管課(部)長及び国民健康保険主管課(部)長並びに後期高齢者医療広域連合事務局長会議 – 厚生労働省 (2024年3月)
(4) 医療保険財政への残薬の影響とその解消方策に関する研究(平成27年度厚生労働科学特別研究)
(5) Patient cost sharing and medical expenditures for the Elderly. Fukushima K et al. J Health Econ. 2016 Jan;45:115-30.
(6) The Effect of Patient Cost Sharing on Utilization, Health, and Risk Protection. Shigeoka et al. Am Econ Rev. 2014 July;104:2152-84
(7) 社会保障 – 財務省(2023年11月)
図/厚生労働省資料に基づき筆者作成 サムネイル写真/Shutterstock