フィクションの「全滅エンド」、それは物語のすべてにケリをつける究極の方法です。最近ではこうした人類まるごと滅びてしまうような作品をあまり見なくなりましたが、昭和のマンガ、アニメではよく見られたエンディングのひとつでした。



原作マンガ『マーズ』5巻(秋田書店)

【画像】え…っ? 「全然雰囲気違う」「服着て」 こちらが『ゴッドマーズ』から20年後に作られた原作に忠実な方のアニメです(3枚)

地球人vs異星人の宇宙戦争は予想外の結末に

 昭和のマンガやアニメを振り返ってみると、そのハードな設定に驚かされることがあります。なかでも特筆すべきは、「全滅エンド」の多さです。いまでこそ全員死亡で終わるような展開はあまり見なくなりましたが、ひと昔前にはこうしたショッキングな結末で終わる作品がいくつもありました。

 1980年に放送された『伝説巨神イデオン』は、まさに全滅アニメの金字塔でした。同作は『機動戦士ガンダム』の生みの親として知られる富野由悠季氏(当時は富野喜幸名義)が原作&総監督を務めた作品で、主人公たち地球人と異星人「バッフ・クラン」による両種族あげての全面戦争が描かれています。

 主人公の「ユウキ・コスモ」は、突如古代遺跡から目覚めた巨大メカ「イデオン」のメイン・パイロットとしてこの宇宙戦争に巻き込まれていくことになるのですが、実は「イデオン」には「イデ」と呼ばれる古代文明人の意志が宿っていました。

 はじめ「イデ」は地球人と異星人を和解させようと、何度も両者の命を救ってきたものの、戦争は収まるどころかむしろ激しさを増していきます。ついにはイデが醜い争いを続ける彼らに見切りをつけ、その強大な力で両者の残存勢力すべてを宇宙の果てに消し去ってしまうのでした。

 なおアニメ終了後には劇場版2部作も制作されており、『接触篇』と同時公開された『伝説巨神イデオン 発動篇』は、TVでは描ききれなかったクライマックス部分を補完した、いわば真の最終回となっています。決戦のさなかに突如イデが発動し、主人公諸とも人類が滅亡するという幕引きには当時多くの人たちが衝撃を受けたのではないでしょうか。主要キャラクターが次々に死んでいく容赦ない展開が多いことから「皆殺しの富野」の異名がついた富野監督作品のなかでも、『伝説巨神イデオン』は「黒富野の最高峰」として今もなお語り継がれています。

 また『伝説巨神イデオン』が最終回を迎えた1981年には、横山光輝先生のマンガ『マーズ』を原作にした『六神合体ゴッドマーズ』が放送されました。ギシン星人の少年「明神タケル(マーズ)」が主人公の物語で、地球人の「コスモクラッシャー隊」とともに合体ロボ「ゴッドマーズ」に搭乗し、地球侵略を企てるギシン星の皇帝「ズール」に立ち向かっていきます。

 そしてその最終回は、全世界の人びとの想いをパワーにして「ズール」を倒すという、希望に満ちあふれたものでした。ただし、原作のラストはまったく違います。

 というのも『六神合体ゴッドマーズ』は、『マーズ』の設定やネーミングの一部を使用しているだけで、原作から大幅に改変されています。地球を守るためにロボットで戦うという大筋の設定はアニメと共通していますが、原作では一般市民たちが異星人であるマーズを敵だと思い込み、暴力に訴えかけてくるのです。

 最後は「ドウシテボクハ コノ動物ヲ守ロウトシタ」と地球人に絶望したマーズが、自らの手で地球を破壊し、物語は幕を下ろしました。



『宇宙戦士バルディオス』劇場版 (C)PRODUCTION REED 1981

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数十億の尊い命が犠牲に…アニメ史上まれに見る「鬱エンド」

 同じく1980年代のロボットアニメ『宇宙戦士バルディオス』も、視聴者に大きなトラウマを刻み込んだ「全滅エンド」作品のひとつです。

 物語が始まるきっかけは、惑星「S-1星」で起きます。環境破壊によって社会の維持が危ぶまれるレベルで荒廃していた「S-1星」では、科学力によって環境を元に戻そうという科学者グループと、軍事力で他惑星を侵略しようという軍部が対立していました。

 そんななか軍部が皇帝を暗殺し、科学者「レイガン博士」の息子である「マリン・レイガン」にその罪を着せてしまいます。亜空間を飛んで地球に逃げ延びてきたマリンは、亜空間戦闘機「パルサバーン」を巨大ロボット「バルディオス」へと改造し、S-1星人によって構成された地球侵略軍「アルデバロン軍」と戦うことを決心するのでした。

 やがてアルデバロン軍は最後の手段として、北極と南極の氷を溶かして世界中の陸地を海に沈めようとします。しかもこの作戦は完遂されてしまい、沈みゆく人びとをバックに「完」という文字が映し出されて物語は幕を閉じるのです。30億人以上の人びとが犠牲となった、壮絶な結末でした。

 ちなみに同作は、当初全39話を予定されていましたが、諸般の事情から第31話をもって打ち切りとなってしまいました。のちに制作された劇場版では、マリンたちが亜空間航行の際に誤ってタイムスリップし、「S-1星」とははるか未来の地球そのものだったという設定が明らかとなっています。