人類の脅威になりそうな存在を排除する防衛チームは、なぜウルトラマンを敵視しない? シリーズの歴史から読み解きます。
『ダンとアンヌとウルトラセブン~森次晃嗣・ひし美ゆり子 2人が語る見どころガイド~』(著:森次晃嗣、ひし美ゆり子/監修:円谷プロダクション/小学館)
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地球人との信頼を積み上げた初代ウルトラマン~メビウス
かつての「ウルトラマンシリーズ」になくてはならなかった存在が、防衛チームです。それは未知の脅威から地球を守る組織であり、生物学的にも資料の宝庫といえる怪獣さえも容赦なく葬り去ってきました。
地球に害を及ぼしそうなクリーチャーはとりあえず攻撃、だったらウルトラマンを攻撃すべきじゃないのか? という疑問が浮かんできます。いったい何を考えているかよく分からず、未知のパワーと巨大な破壊力を持った巨人であり、考えてみれば「怪獣」の必要十分条件を満たしているからです。
全ての始まりとなった初代ウルトラマンと科学特捜隊(科特隊)とのなれそめは、宇宙からやって来た怪獣「ベムラー」との戦いでした。
赤い球体=ウルトラマンに衝突したハヤタは乗っ取られ、もとい命を与えられて一心同体となり、科特隊に「ウルトラ作戦第一号」を提案します。しかし、ハヤタの乗った特殊潜航艇はやられ、そこでウルトラマンに変身してベムラーを撃退……こう整理すると、ウルトラマンが自らを売り込むプレゼンテーションをうまくやってのけたとも思えます。
続く『ウルトラセブン』のウルトラ警備隊は、宇宙のあらゆる侵略から地球を守るために組織されたTDF(地球防衛軍)のエリートチームです。第1話の人間消失事件でも、最初から犯人が宇宙人だと仮定して捜査を始めています。
その前に現れたのが、自称「風来坊」ことモロボシ・ダンでした。「今ウルトラ警備隊が相手にしているのは恐るべき宇宙人です」と何もかも分かった風に説明する民間人、怪し過ぎでしょう。いろいろ進言や協力をしたダンは臨時隊員としてウルトラホーク1号に乗り込み、やがて正規の隊員に採用されました。
客観的事実だけ見れば「まんまと異星人が防衛チームへの潜入に成功」ということで、科特隊よりもセキュリティ意識が下がっているようです。ウルトラセブンを疑ったり、攻撃したりするわけありませんね。
『ウルトラマンレオ』のMAC(宇宙パトロール隊)では、ついにモロボシ・ダン=純粋な宇宙人が隊長になってしまいました。第1話では自らセブンに変身して双子怪獣と戦っていたので、もはやウルトラマンに攻撃どうこうという話ではありません。
もしも大ケガをしていなければ、たびたびセブンに変身して部下の前から姿を消していたはずであり、上層部も正体を知ったうえで採用し、根回しをしていた可能性があります。なぜ作戦の指揮が疎かになりそうな隊長を雇ったかといえば、MACが弱かったからでしょう。
ダン本人が「MACの力ではあの星人は倒せん」と口癖にしており、防衛チームを作る前提にセブンの戦力を織り込んでいたとしか思えません。実際、円盤生物に基地ごと飲み込まれて全滅していますしね。
防衛チームからは怪獣扱いされて攻撃されるなど、散々な目にあったウルトラマンネクサス。それだけに、信頼関係が築けた終盤は感動的だった。画像は「ウルトラマンネクサス TV COMPLETE DVD-BOX」(バンダイビジュアル)
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「邪魔だから」と攻撃されたウルトラマンも
そうした「ウルトラマンへの信頼」の総決算が、『ウルトラマンメビウス』のGUYSです。ウルトラマンメビウスは地球での初陣で、ビルを盾にしたり周囲に大きな被害を出したりしてしまいました。
それに憤慨したGUYSの隊員アイハラ・リュウは、「バカヤロー!なんて下手くそな戦い方だ!(中略)それでもウルトラマンかよ!」とメビウスに説教しました。裏返せば、どれだけウルトラマンを信頼しているんでしょうか。
メビウスは、シリーズ初の「正体バレした後も地球に残り続けたウルトラマン」としても有名です。なぜ帰還せずに済んだかといえば、防衛チームのトップに話が通っていたからです。実はサコミズ隊長はGUYS JAPANの総監であり、かつてゾフィーに助けられた仲であり、メビウスが地球に派遣されることも知っていました。地球とウルトラの星の関係は、すでに根回しできるほど親密になっていたわけです。
そんな信頼の蓄積をリセットした作品のひとつが『ウルトラマンネクサス』です。防衛チーム「ナイトレイダー」はネクサスを攻撃するばかりか、戦いで傷ついたデュナミスト(変身者)を捕らえて人体実験するわ、少なくとも序盤には信頼関係はビタ一文ありませんでした。
本作が奥深いのは、「ウルトラマンが攻撃される理由」が複数あることです。ひとつは、この世界の怪獣であるスペースビーストと勘違いされたから。主に副隊長の西条凪が執拗にやっていましたが、「宇宙から来るのは人喰いのバケモノばかり」の前例が山ほどあり、まして凪はビーストに両親を惨殺されているため、殺意が高まるのも仕方ないのです。
もうひとつは、ナイトレイダーの母体である組織TLT(地球解放機構)が、ウルトラマンが人類の味方だと知ったうえで、「邪魔をするな」「実力を試す」あるいは「力をよこせ」という思惑で動いているためです。
ナイトレイダーとビーストとの戦闘は、より強力な兵器を開発するために必要であり、ウルトラマンに介入されると経験値が得られなくなる。また、人類の協力者であるウルトラマンの力を確認する必要もある。さらにウルトラマンの力を解析して(人体実験はそのため)ウルティメイトバニッシャーという超兵器も作っていました。
ここ数年の新作シリーズは、作品ごとに防衛チームがあったりなかったりで、「ウルトラマン抜きにして怪獣退治は無理」というパターンが多かったりします。が、時々は防衛チームがウルトラマンを疑って攻撃するという、ギスギスした作風もあると良いですね。