現在放送中の月9ドラマ『海のはじまり』(フジテレビ系)が、TVerの歴代最高再生回数の記録を塗り替えるほどの大ヒットとなっている。なぜ、これほどまでにこのドラマが話題になっているのだろうか。そのカギは、他局とは異なるフジテレビ独自の戦略にありそうだ。
すべてがオリジナル作品のフジテレビドラマ
フジテレビドラマが今期、他局とは異なる大きな試みをしている。1日で最も視聴者の多い時間帯であるプライム帯で放送している『海のはじまり』『マウンテンドクター』『新宿野戦病院』『ギークス~警察署の変人たち~』『ビリオン×スクール』の5本、すべてが原作の存在しないオリジナル作品なのだ。
他局と比べると、ここ最近ドラマが絶好調のTBSは『西園寺さんは家事をしない』『笑うマトリョーシカ』『ブラックペアン シーズン2』と、プライム帯で放送している3本すべてが原作付きだ。
日本テレビは『GO HOME〜警視庁身元不明人相談室〜』『マル秘の密子さん』がオリジナル、『降り積もれ孤独な死よ』が漫画原作で、3本中2本がオリジナル。
テレビ朝日は『科捜研の女 season24』のみオリジナルで、『スカイキャッスル』が韓国ドラマのリメイク、『南くんが恋人!?』は往年の名作漫画『南くんの恋人』の男女逆転版だ。
フジテレビがオリジナルに力を入れている理由のひとつに、局が公募している脚本コンテスト『フジテレビ ヤングシナリオ大賞』がある。こちらは、新人脚本家を発掘するためのコンテストで、すでに35年以上もの歴史があり、第1回の大賞受賞者は坂元裕二、第2回は野島伸司と、日本ドラマを代表する大御所が世に出るきっかけとなった。
その後も、『結婚できない男』の尾崎将也、『アンナチュラル』の野木亜紀子、『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』の黒岩勉など、今のドラマ・映画界を担っている売れっ子を続々輩出。さらに、3年前に大賞を受賞した生方美久は、その直後に『silent』を書いてメガヒットを飛ばすと、その翌年も『いちばん好きな花』を書き、今期は『海のはじまり』を書いて、3作連続のヒットを記録中だ。
新人脚本家が生方のようにいきなりプライム帯ドラマのオリジナル脚本を単独で書かせてもらえることはほとんどないが、フジではその翌年も、同コンテストで大賞を受賞した新人・市東さやかを月9の脚本に抜擢し、オリジナルドラマ『真夏のシンデレラ』を制作するなど、積極的に若手にチャンスを与えている。
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オリジナル作品と原作つきの違い
フジテレビのような脚本コンクールは、民放キー局ではテレビ朝日も2000年から20年以上、「テレビ朝日新人シナリオ大賞」というコンテストを実施しているのみ。長年、フジとテレ朝だけが新人発掘を担っているような状況であった。しかし昨年、ついにTBSと日本テレビも脚本コンクールを始動させ、民放キー局すべてが脚本家コンテストをやりはじめることになった。
脚本コンテストの狙いはやはり、原作に頼らない“オリジナル作品”を作ることで、民放各局が書き手を探している。
というのも、ここ数年、テレビのドラマ枠はどんどん増えており、2023年の秋時点で、ワンクールの連ドラ枠は39枠。20年前の倍ほどに膨らんでおり、もはや原作の供給が追い付いていないような状態なのだ。
「テレビ局では “人気”や“結果”が出やすそうな原作付きドラマが好まれる傾向にあるのではないでしょうか?」と語るのは、チャンネル登録者約4万人、ドラマ考察情報などを発信するYouTube「ごちそうさまです。エンタメ君 CHANNEL」を運営するすけまるさんだ。
「原作つきドラマはすでにファンが多数いて、さらに脚本の展開もある程度担保されていることから、局内で好まれやすいのでは? と思います。一方で、オリジナルドラマはそういった担保がないからこそ、チャレンジングな内容で勝負する傾向が強いとも感じます。もちろん、安定志向なオリジナルドラマも結構ありますし、チャレンジ要素の強い原作つきドラマもあるので、一概には言えないかもしれませんが……」(すけまるさん)
その代表例としてまさに挙げられるのが、今期の大ヒット作『海のはじまり』。いま、一番ノッている男性アイドルSnow Man・目黒蓮を“子持ちにする”というチャレンジングな設定。月9とは思えないほど、暗くて重く、苦しい展開。フジテレビ以外ならば、企画の段階でハネられてしまいそうな要素がてんこ盛りだ。
だがこれで勝負をした結果が大成功。今期ナンバーワンとまでの評価を得ることになった。成功の理由のひとつに、ストーリーが面白いことは言うまでもないが、もう一つの大きな要素として“考察”がある。