中国の公安当局は、今年5月末に東京都千代田区の靖国神社の石柱に放尿するしぐさをし、スプレーで落書きした中国人の男を別の恐喝容疑で拘束した。当局は発生直後から男の行動に眉をひそめており、“別件逮捕”で動きを封じた可能性がある。一方、この男に触発されたのか、8月にも中国人が靖国神社に落書きをし、さらに、このニュースをNHKの国際放送で伝えた中国人スタッフが原稿にない歴史問題がらみの日本非難を口にするなど、問題は新たな展開を見せている。
5月の落書き犯を中国当局が別件で逮捕
中国公安当局が逮捕したのは上海市在住とみられる董光明(とう・こうめい)容疑者(36)。「鉄頭」と名乗って中国の動画サイトでお騒がせ映像を流して名を売る“迷惑系ユーチューバー”だ。
「董容疑者は5月31日夜、神社入り口の石柱に登り柱に放尿するようなしぐさをし、赤色のスプレーで石柱にアルファベットで『トイレ』と書き、その様子を撮影した動画が6月1日に中国の動画投稿アプリ『小紅書』(レッド)にアップされ拡散しました。
警視庁は映像や周辺の防犯カメラの解析から後に董容疑者を特定しましたが、董容疑者は動画を撮影したとみられる中国人の許来玉(きょ・らいぎょく)容疑者(25)とともに落書きした後、羽田空港に直行し、6月1日早朝には上海に帰国していました。動画の投稿はその前後に行なったようです。
董容疑者は6月3日には中国の別の動画配信サイト『哔哩哔哩(ビリビリ)』に帰国宣言を投稿し、神社での狼藉は東京電力福島第一原発の処理水放出に抗議するためだという趣旨のことを主張しました」(警視庁詰め記者)
警視庁は礼拝所不敬と器物損壊容疑で董、許両容疑者の逮捕状を取り、7月にはスプレーを買って董容疑者に渡したとみられる埼玉県在住の中国籍の男を共犯として逮捕した。日本と中国との間には犯罪人引渡条約がないため、董、許両容疑者を日本で裁ける見通しはない。
「ただ中国外務省はこの事件の発覚直後、靖国神社は『日本軍国主義が発動した対外侵略戦争の精神的道具とシンボルだ』と従来の表現で否定的に指しながら、董容疑者らの行動については『外国にいる中国国民が現地の法律や法規を遵守し、理性的に要求を表現するよう改めて注意する』と発言しました。
日本との緊張のレベルを維持する姿勢を明確にしている習近平体制としては、靖国神社への狼藉を非難することはできませんが、個人の違法行為が原因で軋轢が深まることは日本に理があることになり格好が悪いので、みっともない犯罪は許さないという表明をしたと言えます。
このため、何らかの形で董容疑者らの動きを封じ、同種の事件再発を止めたい思惑はあるでしょう。今回の別件逮捕は、まさにそのような状況でなされました」(外報部デスク)
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新たな落書き犯も身柄引き渡しはされない見込み
そもそも董容疑者は、ネットショッピングの商品を糾弾する映像で視聴者を集めたりする迷惑系ユーチューバーで、性犯罪で収監されSNSのアカウントが凍結された前歴があるとの情報もある。叩けばホコリはいくらでも出るような怪しげな人物なので、中国公安もその気になれば摘発する材料を探すのは難しくなかったことだろう。
「拘束された容疑は、日本に来る前の今年5月、ネット販売業者を脅して数百グラムの金を脅し取ろうとしたことなどとみられています。地元当局は、証拠品も押収しているようです」(外報部記者)
だが、模倣犯はすでに生まれている。
「8月19日の未明に、またも靖国神社の石柱に、フェルトペンで書かれたとみられるトイレを意味する中国語の『厠所』や『軍国主義』など計6つの落書きが見つかったんです。前夜に不審な人物が石柱の台座に上った姿を防犯カメラがとらえていました。
犯人とみられる男は事件の数日前に知人らと来日して新宿区内のホテルに泊まり、現場には一人で行ったとようです。
この男も、犯行直後の19日の午前中に、羽田空港から中国に出国していました。董容疑者とまったく同じ手口の“ピンポンダッシュ”のような逃げ方です。男は落書きが発覚する数時間前にその写真を中国のSNSに投稿し『この後香港に行く』とも書いていました。
警視庁が引き続き捜査をしていますが、器物損壊などで逮捕状を取っても身柄引き渡しを受けられないのは董容疑者の事件と同じです」(社会部デスク)
靖国神社を巡っては、本殿に向かって中指を立てて侮辱するような写真が中国のSNSに多くアップされている(#1)ほか、今年8月15日の終戦記念日には境内で中国語でまくしたてる人物と参拝者の間で口論も起きた。
こうした騒ぎや2回の落書き事件の背景には、靖国神社が「軍国主義の象徴」と中国や韓国で認識されている現実がある。