嘘がバレる人は「聞いてないことを喋る」。元刑事が語る「嘘の見抜き方」

相手を観察し、共感することがコミュニケーションの要

──しかし、一番は相手がウソをつくこともなく、正直に真実を話してくれることですよね。話す相手から本音を引き出すために、森さんが意識することはありますか?

目線を落とし、同じ立場であることを示すことが一番重要だと思います。

事情聴取をするとき、上から目線で「やったでしょ」と問い詰めようとすると「俺は調べられている立場にある」「裁かれる立場にある」という意識になってしまうんです。頑なに心を閉ざしてしまい、ウソどころか言葉すら発しなくなる場合もあります。

何かを隠している相手というのは「この人を信頼して喋っていいのか」と周りを常に疑っている状態。だからこそ対等の立場であることを伝えることで「話していい相手」だと認めてもらう段階は踏むようにしています。

──会話の中で「本音を話していい相手」だと思ってもらうために、相手にはどういったことを伝えればいいのでしょうか?

「ぼくが君の立場だったら同じことをやってしまったかもしれないね」とはよく伝えていました。実は、取り調べの上手い人はそういった共感力が高い「人たらし」が多いんですよ。

ぼくが千葉県警に勤めていたとき、非行少年とコミュニケーションをとるのがとても上手い女性警官がいたんです。彼女はトータルで1,000人以上もの未成年を補導してきた実績があって、どんな非行少年でも懐に入るのが得意な人でした。

──その人はどんなテクニックを持っていたんですか?

たとえば万引きの疑いをもつ中高生がいるとします。頭ごなしに「お前、万引きしただろ!」と問い詰める警察官が多いなか、彼女は違った。「へー、万引きしちゃったんだ。実は私もね、昔、万引きしたことがあるんだよ」と伝えると、相手は「えーっ、お巡りさんもしたことあるの?」と距離感が急に近くなり、なんでも話してくれるようになるそうです。

もちろん、彼女が本当にしたことがあるかどうかは別ですよ。でも、その話をすると自然と中高生たちとも打ち解けられるようになったと聞きました。

そうやって対等な目線で接してもらえると、人は安心します。いつもは厳しい課長が「実は嫁さんのケツに敷かれていて……」なんて人間味を出してきたら「こんな怖い人なのに意外だな」と好感を持てるじゃないですか。

結局ビジネスの場面でも、コミュニケーションの方法は同じだと思うんです。

──森さんは「ウソの見抜き方」を含めたコミュニケーションスキルを身につけるために、現役警察官時代にどういったことを実践していましたか?

ぼくの場合、まずは人をちゃんと観察することから始めました。

先ほども言った通り「ウソのサイン」は仕草や表情、言葉に表れます。でも「平常時から顔を触る癖がある人」や「質問をおうむ返しにする人」もいる。

「この人、何か怪しいな」と感じ取るためには普段の様子もチェックできていないと意味がない。そう気付いてから取り調べがスムーズになりました。

実は、それってチームをマネジメントする立場にある人にとっても重要な心がけだと思っていて。「部下が問題を抱えていそう」「メンバーが辞めるかもしれない」というサインに気づける人は、普段からチームの一人ひとりをちゃんと観察していると思うんですよね。

そして対等な会話を通し「何か隠していることがありそう」と違和感があれば、原因を探っていく。そういったコミュニケーションが、組織の環境をより良くしていくと思います。

人間だからウソをつかない人はいませんし、みんな結局のところは「心」が大事なんです。「本音を引き出す」「ウソを見抜く」より先に、人としてちゃんと相手を見ることができているかを、皆さんには意識していただきたいです。

(文:高木望 写真:鈴木渉)