放送当時、内容が難しすぎて子供は置いてけぼりだった『太陽の牙ダグラム』は、しかし約1年半ものロングランを完走しました。そこには理由がありましたし、今になってリバイバル人気が高まっているようです。
「太陽の牙ダグラム」は1981年10月23日よりテレビ東京ほかにて全75話が放送された (C)サンライズ
【画像】「ダグラム」といえば…こちらが各社「朽ちダグラム」の競演です(5枚)
「政治大河ドラマ」と評された物語の結末は?
1980年代はリアルロボットアニメブームに沸きました。そのなかで「異色作」とも呼べるのが『太陽の牙ダグラム』でしょう。
制作は『機動戦士ガンダム』で知られる日本サンライズ(現:サンライズ)、メイン監督は、これがロボットアニメ初という高橋良輔氏(代表作『装甲騎兵ボトムズ』)です。放送は全75話、1981年から83年まで足かけ1年半にわたる壮大な物語でした。
物語の舞台は22世紀中頃です。地球人類は、人口増加や食糧難、エネルギー物資の減少といった問題を解消するため、150年前に植民星として「デロイア星」を開拓し、多くの人びとを移住させます。
デロイア星ではあらゆる産業を実らせ、物資を地球へ輸出してきた一方、そこに住む人びとは、長いあいだ地球人から抑圧と差別的な扱いを受けてきました。これに不満を持つデロイアの反乱軍ゲリラと、それを制圧しようとする地球連邦による争いが激化します。
主人公の「クリン・カシム」は、地球連邦評議会議長「ドナン・カシム」の息子でありながら、デロイアの過酷な現実を知って反連邦軍に身を投じ、「太陽の牙隊」の仲間と共に、ロボット「ダグラム」パイロットとして戦うのでした。
これは「戦争」が根底にある作品ながら、ロボットアニメによくある勧善懲悪の構図ではなく、独立戦争の勃発から終結までをリアルに描いたものです。作品の趣旨が「子供も大人も楽しめる」ということもあり、政治色が強く、ゲリラ、クーデター、複雑な戦略や心理戦も絡みます。登場する若者たちが成長する姿を通して仲間の大切さも見えてくる、ロボットアニメにして人間ドラマでした。
そのような『太陽の牙ダグラム』は、どのように終わったのでしょうか。観ていたけど憶えていない人なら分かる(?)、最終回は次のような流れでした。
「僕はこの手でダグラムと別れる!」ややこしい最終話を改めて
最終回である第75話「燃えつきたあとに」では、デロイア解放軍穏健派の「カルメル」が地球連邦側の実力者「ラコック」と、デロイアの独立協定に調印します。不可解なデロイア独立が認められて新政権が立ち上がりました。
納得がいかない強硬派の「太陽の牙」たちは、ダグラムを中心にデロイア駐留部隊と戦います。ただし、これはテロ行為にあたるため、同志である「サマリン」博士が停戦を求めて新政府代表カルメルがいる建物へ向かいます。このとき博士は銃弾を受けてしまいました。命をかけた博士の説得に、カルメルはデロイア星治安維持軍の出動を要請、停戦は受け入れられます。
一方、ラコックがデロイアの独立を企てたのは、自分がデロイアを乗っ取るための策略でした。カルメルの治安維持軍出動要請に腹を立て、話し合うために彼の元を訪れますが、甘い汁を吸おうと付きまとう部下の「デスタン」に対して「この寄生虫めが!」と侮辱したことで逆上され、銃殺されてしまいます。
ラコックの死により、デロイア星での地球連邦関連組織は死に体です。一触即発の状態だった新政府の治安軍と連邦軍との前面衝突は回避され、連邦軍は撤退します。クリンたち「太陽の牙」メンバーは生き残ったのでした。
サマリン博士は「太陽の牙」のメンバーに戦い以外の道を説き、彼らを正しい道へ導く説得をして、そっと息を引き取ります。そして「太陽の牙」は武装解除の意思を固めるのでした。
しかし、クリンだけはダグラムに乗り込み立ち上がります。そして。
「僕は嫌だ! ダグラムを渡すのは嫌だ! ダグラムをこのまま渡すのだけは嫌だ! このダグラムは、このダグラムは僕の全部だ! 僕の身体で、僕の牙で、僕の心で、一緒に泣いて、一緒に走って、一緒に歩いてきた! デロイアでの、僕のすべてなんだ! ダグラムをこのまま渡しちゃったら、この先一歩も進めない、僕はこの手で、ダグラムと別れる!」
そう叫ぶと涙を流しながら自らの手でダグラムを爆破、焼却を行うのでした。
最後は、砂漠で廃棄され錆びたダグラムが映し出されるシーン(第1話の1stシーンにつながる)で『太陽の牙ダグラム』は幕を閉じます。
「COMBAT ARMORS MAX01 1/72 Scale コンバットアーマー ダグラム」(マックスファクトリー) (C)サンライズ
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プラモデルが好調! ガンプラとの違いを出すために…
1983年に放送されたこの最終回をリアルタイムで観た人、そしてよく憶えているという人はどれほどいるでしょう。最終回のあらすじを読んだだけでも、その複雑さが伝わりそうです。
印象では「大人を意識しすぎた」感じがあって、当時の子供が物語を理解するにはかなり難しかったようです。あるアニメ雑誌には「ストーリーが分かりにくい」「ロボットアニメではなくて政治アニメ」と辛口な投稿も載せられ批判もされました。
登場人物はおじさんばかりで、際立つヒロインもおらず、恋愛のサブストーリーもありません。しかも子供には難しい政治的な内容です。それでも視聴率は好調でした。
要因のひとつは「ダグラム」やほかの大型ロボット群「コンバットアーマー(CB)」に人気があったからです。とにかくプラモデルの売上げが好調でした。高橋監督は、あるインタビューで「ロボット(プラモデル)が売れれば何をやってもいいと言われた」と話しており、『機動戦士ガンダム』の「ガンプラ」との違いを出すために、「ジオラマ」を意識したそうです。第1話、冒頭で砂漠に埋もれ朽ち果てたロボット「ダグラム」のシーンは衝撃でした。あのシーンをジオラマにした「朽ちダグラム」は、今でも人気です。
アニメの演出面でも、ロボットは奇抜な武器をあまり搭載しておらず、パイロットのテクニックや戦略で勝負するのが見どころでした。また、「燃料が切れたら動かない」「コックピットの開閉ハッチが手動式」など、ちょっとアナログな描写がリアルロボット感を高めました。視聴していた子供はこういう部分に魅力を感じたのだと思います。
「子供の頃、観ていたけれど内容を憶えていない」という人に、大人になって改めてDVDなどで見返す人はたくさんいるようです。全75話を見るのは大変ですが、内容はまるで「ロボットアニメ版政治大河ドラマ」とでもいうべき物語で、昔の寸評とは逆に「ロボットアニメであり、政治アニメでもあるから面白い」といった感想を持つ人は多いそうです。