〈増え続ける不登校〉「逃げることも頑張らないことも正しい選択」教え子4人の自死、娘の不登校で“学校教育の矛盾”に直面した元中学教員の思い。不登校の親子だけが参加する離島キャンプとは

教え子4人の自死「逃げることも頑張らないことも正しい選択」 

また渡部さんは35年の教員生活の中で、教え子4人を自死で失った経験も大きな影響を受けた。

「自殺した教え子はみんな頑張って頑張りすぎた先に死んでしまった。彼らが中学生だった頃、教員として教えてきたことは『頑張れ』だった。『苦しくても頑張れ』『頑張った先に必ず道は開ける』。

私は生徒をレールの上に乗せて後ろからガンガン尻を叩いていた。でも本当に大事なことは困難に直面したとき、頭を切り替えて考える力を身に付けることだった。そのことを伝えていたら、もしかしたら彼らは死なずに済んだんじゃないかって思い、心が苦しくなります」

渡部さんは昨年6月、同法人を設立。今年春には教員を退職し、不登校の親子キャンプの企画以外にも幅広く教育活動に力を注いでいる。

文部科学省の調査によると、2022年度の小中学校における不登校児童生徒数が29万9048人(前年度は24万4940人)となり、前年度比で22.1%増加するなど、30年以上にわたり増加傾向が続いている。

また学年が上がるにつれて不登校児童数は増加し、小学6年生と中学1年生の間では不登校児童数は約1.8倍に。この現状から近年は「不登校児童を学校に行かせようとする」という思考から「不登校であっても適切な教育を受けられるように機会を整備する」という方向へと変わっていき、フリースクールの開設・拡充の動きが広がっている。

しかし、その動きにも渡部さんは警鐘を鳴らす。

「今の日本の教育は子どもが自ら選べる選択肢が少ない。支援という名目で、またレールを敷いてフリースクールに入れましょうって。そこに子どもの意思があればいいけど、それ抜きで与えられていることも多いように感じます。

大事なのは選択肢の中から子ども自身が考え、決定し、責任を持って行動すること。子どもが選んだ選択肢を否定しないこと。自分の意志で外に出ていろんな人と出会う、そこでの居心地のよさがその子にとっての居場所になる。

学校では経験できない学びの場となる。そこでの体験は、教科書を100ページ読むよりずっと大切で価値のある学びとなります」

その一つとなるために、渡部さんが企画したのが、隠岐のキャンプだ。

「隠岐って移住者も多いし、よそ者を受け入れて新しい文化を作っていくホスピタリティ溢れる島。不思議な優しさがあるし、大自然に囲まれた中で日常とは違う感覚になれる場所でもあるんです。

社会にはあなたがいる場所がたくさんあって、その一つとして『隠岐に来て一緒に遊ぼうよ』って。『いろんなものや人がいるし、いろいろ背中を押してくれることもあるよ』って。ただそれだけです」

多くの地域で夏休みが終わり、新学期が始まる9月1日。その日が近づくことが恐怖でしかなく、その前後で子どもの自殺率が高まることが近年、問題視されている。

「9月1日に学校が始まって苦しくなってしまう子どもたちは、『学校に通うしか生きていく選択肢がない』と思い込んでしまいがちです。

僕たちは幸せになるために山の頂上に向かっていて、それにはいろんなルートがあります。すべて正解だし、逃げることも頑張らないことも正しい選択。今の社会は学校の時間に外で子どもが遊んでいたら、『なんで学校に行ってないの』ってなってしまう。

学校こそ子どもがいるべき場所という固定観念が強く、子どもの選択肢が大人によって制限されていると感じます。でも社会にはあなたたちがいてもいい場所がたくさんある。いろんな選択肢から彼らが自ら選び、その中で豊かな時間を過ごして、その経験を生きる自信にしてほしいです」

取材・文/集英社オンライン編集部