分裂が盛んなメデューサ型は未知のタンパク質を分泌している
メデューサ型は増殖力が強く致命的な病状を引き起こす / Credit:菊地泰生(宮崎大学)- 謎の寄生虫「芽殖孤虫」のゲノムを解読 -謎に包まれた致死性の寄生虫症「芽殖孤虫症」の病原機構に迫る-(2021) / ナゾロジー改変
研究チームが、マウスから取り出した虫体を観察していると、あるとき、盛んに出芽・分裂しているものと、出芽がみられない増殖度の遅いものがあることに気付きました。
そして増殖度が高いものを「メデューサ型」、低いものを「ワサビ型」と命名します。
次に研究チームは、これら2タイプでは何がどう違うかを顕微鏡レベルで調べることにしました。
結果、メデューサ型はワサビ型に比べて動きが活発で、とく発達した液胞を持っていることがわかりました。
さらに最新の機器で働いている遺伝子を比較した結果、メデューサ型ではタンパク質分解酵素、がん関連遺伝子の働きが大きく上昇していました。
特に発現量がワサビ型の200倍を超える遺伝子には、細胞外基質分解酵素(組織の侵入に使う)、神経伝達物質であるアセチルコリンの分解酵素、そして芽殖孤虫にのみ発見されている機能不明なタンパク質群が発見されました。
これら未知のタンパク質は構造的に、細胞外に出て働く分泌性タンパク質とよく似ており宿主免疫系に影響を与えると考えられます。
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100年前の名医がサジを投げた伝説の奇病に挑む
今回の研究により芽殖孤虫のゲノムが明らかになりました。
現在、芽殖孤虫の感染に対しては有効な治療薬が存在せず、外科的な摘出手術のみが確実な治療法となっています。
しかしゲノムが解析されたことにより、標的とすべき芽殖孤虫の弱点も明らかになり、新薬開発につながると期待されます。
またゲノム解析は、芽殖孤虫がどのような過程をへて誕生したかという、進化的疑問を解決する第一歩になります。
伝説の奇病、芽殖孤虫の不思議が解き明かされる日は近いのかもしれません。
※この記事は2021年6月公開のものを再掲載したものです。
参考文献
謎の寄生虫「芽殖孤虫」のゲノムを解読 -謎に包まれた致死性の寄生虫症「芽殖孤虫症」の病原機構に迫る-
http://www.miyazaki-u.ac.jp/public-relations/20210531_01_press.pdf
元論文
Genome of the fatal tapeworm Sparganum proliferum uncovers mechanisms for cryptic life cycle and aberrant larval proliferation
https://www.nature.com/articles/s42003-021-02160-8
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
やまがしゅんいち: 高等学校での理科教員を経て、現職に就く。ナゾロジーにて「身近な科学」をテーマにディレクションを行っています。アニメ・ゲームなどのインドア系と、登山・サイクリングなどのアウトドア系の趣味を両方嗜むお天気屋。乗り物やワクワクするガジェットも大好き。専門は化学。将来の夢はマッドサイエンティスト……?