恋愛シミュレーションゲームの代名詞ともいえる「ときめきメモリアル」シリーズは、ナンバリングタイトルを重ねるにつれ、そのメインヒロイン像も大きく変わっていきました。いくつかのキーワードから、その変遷を読み解きます。
初代のメインヒロイン、藤崎詩織。その圧倒的な攻略難度の高さから「ラスボス」の称号が贈られた。画像はSwitch版公式サイトより。
【画像】ゆ、ゆっこもかわいいんだってば! 「ときめきメモリアル」歴代メインヒロインを見比べる
元祖メインヒロイン「藤崎詩織」のラスボス的な存在感
恋愛シミュレーションの元祖的な存在である『ときめきメモリアル』(コナミ)が登場してから、はや30年が経ちました。そのシリーズ第1作が2025年にNintendo Switchにてリメイクされるとのニュースに、世間は色めき立っています。
正当な続編は『4』まで作られており、この間、ヒロイン像は大きく移り変わっていきました。それらはゲームシステムの変更から来ていたり、さまざまな事情が影響していたりします。各シリーズ作品で「顔」となっていたメインヒロインを通じて、その足取りをたどってみましょう。
まず『ときめきメモリアル』(以下、ときメモ)の初代メインヒロイン「藤崎詩織」は、幼なじみでありながら、最も攻略が難しい「ラスボス」っぷりが今でも語りぐさです。
『ときメモ』は学業やスポーツなどを通じてパラメータを上げていき、それに応じて各ヒロインが登場するという構造が共通しています。特定のキャラにかまけていると、別のキャラの傷心度が高まり、やがて爆弾がさく裂して全員の好感度が下がる……ということで、「目当てのキャラに対応したパラメータだけ上げて、登場するキャラの数を抑える」のが鉄則です。
そうしたなか、詩織は全パラメータを上げることが攻略に必須です。つまり、何も考えずに主人公を鍛えていると、ほぼ全キャラが登場し、爆弾処理に追われてデートどころじゃなくなります。その難攻不落ぶりは悪評……どころか、ファンの熱烈な支持を集め、カリスマ的な人気を誇っていました。
当時のコナミは『グラディウス』や『魂斗羅』など、硬派なアーケードゲームで知られたメーカーであり、その対極にありそうな『ときメモ』が世に送り出されたときには驚かれたものです。が、フタを開ければ詩織がとてつもなく“硬く”、ゲーマーたちは難度の高さに大喜びです。数々の試練を乗り越え、伝説の樹の下で告白を受けたときは「やったぁ! 詩織を倒した!(誤記にあらず)」と打ち震えていました。
続く『2』の「陽ノ下光(ひかり)」は、最初から好感度が高く、攻略という意味のハードルはグッと下がりました。その代わり、光は「幼なじみ力」を極限まで高めていたのです。
幼年期には主人公の家の隣に住んでともに思い出を作り、引っ越していく主人公を涙ながらに追いかけています。これが受動的なムービーではなく、「プレイヤーがミニゲームとして体験する」のが強力です。
しかも、高校へ入学し再会した時にはショートヘアになっていたのも、一向に帰ってこない主人公への思いを断ち切るため……むしろ攻略しないことに罪悪感さえ覚えてしまいます。
陸上部に属する短髪女子がメインヒロインに抜てきされたのには驚かれましたが、おおむねすんなりと受け入れられました。攻略的に安パイのようでいて、終盤でライバルに取られるスリルもあり、ゲームシステムと幼なじみ力が見事に融合していました。
伝統の「幼なじみ」枠として登場した大倉都子。まさか「ヤンデレ力」によりメインヒロインふたりを圧倒するとは。 『ときめきメモリアル4』(コナミ) (C)2009 Konami Digital Entertainment
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「王道」を乗り越えた先にヤンデレの星・大倉都子あり
さて『3』のメインヒロイン「牧原優紀子」は、ゲーム本編の方向性を象徴している存在です。
本作が「ときメモ」ブランドを従来のコア層から一般客層へと広げる狙いは、投資信託「ゲームファンド ときめきメモリアル」の一部から開発資金を得ていたことからも明らかでした。そのためか、初代や『2』に見られたような、「お約束」的造形のキャラはほぼいなくなり、性格もシナリオも現実味を増しています。
ゲーム表現的に最も大きな変更点は、前作までの2D(静止画)から3Dのトゥーンレンダリング技術に移行したことです。手を振り上げたり、もじもじしたり、フルアニメーションによる自然な動きが魅力となるはずでした。
が、まだ初期の技術だったこともあり、プレイヤーの目が動きに慣れるまで時間が掛かりました。また顔の造形がどのキャラもほぼ同じに見える上に、ひとりずつモーションを付ける作業が大変だったためか、攻略対象となるキャラが(隠しを含めて)8人という、シリーズ最小の人数となっています。
牧原優紀子は、ルックス的にも性格的にも飛び抜けたところがありません。その上、現実的なあり方にこだわったためか、「幼なじみ」という最強のカードを手放してしまいました。
そうした結果が、コナミ公式の人気投票で8人中7位に甘んじたことに現れています。『3』の方針転換を一身に背負い、その重さに押し潰された悲劇のヒロインではないでしょうか。
2024年現在シリーズ最終作である『4』は、「星川真希」と「皐月優」のダブル・メインヒロインです。そこは、パッケージにもふたりが並んでいるので議論の余地がありません。
星川は「親しみやすくて攻略もしやすい」ということで『2』の陽ノ下光枠、皐月は「最高の難度を誇る」=「藤崎詩織の後継者」に位置づけられます。『4』は前作が革新的すぎた反省のためか、舞台を1作目の「きらめき高校」に、ゲームシステムも『2』のようなシンプルさに戻し、全般に原点回帰の印象があります。
そこで人気をかっさらったのが、伏兵というべき「大倉都子(みやこ)」でした。ゲーム進行上は、主人公にほかの女の子たちの情報を教える、初代の「早乙女好雄」的なポジションです。が、メインのふたりにない「主人公の幼なじみ」属性を持っているためか、発売前から高い人気を集めていました。
さらにゲームの発売後、実は攻略可能キャラだと判明します。そこまでは半ば想定内ですが、デートを重ねると好感度が上がっていくはずが、主人公のとある言葉で大きく傷つき、闇キャラへと変貌します。
お弁当には主人公の嫌いなものばかり詰め込んできて、残すことも許しません。そのような恐ろしい言動にもめげずにデートを繰り返すと、デレデレ期が到来します。愛が深いほど闇も深く、長いトンネルを抜けた後の光はまぶしくもあり、プレイヤーたちは都子を攻略するのではなく「攻略されてしまった」のでした。
大倉都子は、当時の数年前にブームだった「ヤンデレ」と呼ばれがちです。が、厳密にはヤンデレは「主人公には底知れぬ愛を降り注ぎ、周囲には害を与える」存在のはずであり、「主人公だけにつらく当たる」都子はそれに当たらないのではないでしょうか。
むしろ、メインヒロインが「王道」に戻ったからこそ、今まで見たことがないストーリー展開、それでいて「幼なじみ」という懐かしい概念へと着地したことに衝撃が走ったのでしょう。都子が真のメインヒロインとも呼ばれるのは、星川と皐月のおかげでもあり、ひいては開発サイドがプレイヤーの心の機微に寄り添ったからと考えます。
「ときメモ」もシリーズ作品の例に漏れず、常に古参ファンに配慮する「保守」とユーザー層を広げようとする「革新」の板挟みとなり続けています。『3』の牧原優紀子と『4』の大倉都子は、その振れ幅の激しさを示しているのです。