高齢者に有効なビッグワード
同社では、どのようにシニアのデジタル利用の実態を把握しているのか。そのアプローチは、実は雑誌のハルメクと同様だ。高齢者にじかに接触し、リアルな声や行動を収集するという骨の折れる作業を地道に行っている。
「実際、PCの操作はどのように行っているのか。あるいは、スマホやLINEはどう使って、動画はどうやって見ているのか。ハルメクの読者や通販の会員などから選抜した高齢者に当社に来ていただき、一つひとつの挙動を見たり、ヒアリングを行ったりしながら、特徴や問題点を洗い出し、分析や有効な対策を見いだしていく」と、同社営業局コンサルティング部長の熊倉圭介氏は話す。
そうやって、シニアに対し、繰り返しユーザーテストと分析を行った結果、どこにもない唯一無二のファインディングス(発見)が積み上がっていく。
では、ファインディングスの一端を見ていこう。まず、同社による様々なテストから見えてきたことは、前提として、シニアは文字入力が苦手という事実だ。例えば、検索窓に対する入力では、PCでもスマホでもミスが多い。加えて、「1つの単語で検索する」傾向もある。
入力作業が多くなるため、現役世代や若者のように、複数の単語を入力して絞り込んだ検索を行わない。例えば、銀座でランチの場所を調べる場合、「銀座ランチ」とは検索せず、「銀座」か「ランチ」と入力しがちだ。
さらに、サジェスト機能(検索エンジンで文字を入力する際、キーワードを予測して表示する機能)により、入力途中で候補として表示された単語を押しがちという特徴も見られる。
入力が苦手なため、サジェストに頼るわけだ。結果、当初、頭に浮かんだ単語以外を選んで検索してしまう可能性も出てくる。
こうした行動特性が分かると、具体的な対策が見えてくる。1つの単語で検索するということは、消費者が検索したキーワードに関連した広告を表示させる「リスティング広告」を行う場合、誰もが思い浮かべやすい、いわゆるビッグワード(検索されることが多いキーワード)で出稿するのが効果的ということだ。
また、サジェスト機能の候補単語を押しがちであるなら、入力途中でどんな単語が出てくるかをあらかじめ確認し、必要に応じてその候補単語での出稿も検討対象となる。
関連する行動としては、高齢者は検索結果の一番上に表示されたタイトルや説明文をクリックすることが多いという特性もある。「シニアは検索結果の一番上にあるものほど、良いものであり、自分に合うと考えている。それが広告なのか自然検索で示された項目なのかは気にせずクリックする」(熊倉氏)
実際、検索サービスを提供する他社の調査でも、高齢になるほど、検索広告のクリック率は高くなる傾向を示しているという。つまり、多少費用をかけてもビッグワードで出稿すれば、高齢者はクリックしてくれる確率が高く、現役世代や若者以上にリスティング広告が効くということだ。
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高齢者はスクロールが得意
得意な操作もある。その一つが画面のスクロールだ。PC、スマホのいずれでもスムーズに操作でき、そのページがどんなに縦長でも、どんどん下へ下へとスクロールし、最後まで見てくれる。
逆に、1つのページをより短くして、クリック(タップ)することによってページが遷移する仕組みは苦手だ。ページが次から次へと遷移すると、迷子になってしまったとネガティブな感情を抱き、離脱してしまう可能性が高まる。
こうした行動から導き出される対策は、情報量が少ないページを複数用意するのではなく、情報量が多くても1ページに集約することだ。極力ページを遷移させずにコンバージョン(サービスの利用開始)まで完了する導線設計を行うとよい。
そして、入力が苦手にもかかわらず、登録フォームはすべての項目を埋めがちな傾向も見られる。一般的に登録フォームは、任意項目と必須項目が混在している場合が多い。それらに対し、高齢者は全部入力しなければならないと考えてしまい、任意項目までも何とか埋めようとする。
すると、入力回数が多くなる分、ミスも発生する。登録ボタンや送信ボタンをいくら押しても、間違いがあるために次の画面で入力エラーの表示が続き、途中で登録を諦めてしまうのが往々にしてあるパターンだ。
したがって、高齢者向けの商品やサービスの登録や申し込みフォームでは、余計な任意項目を設けないことが鉄則となる。全角や半角の自動変換機能によって、そのどちらで入力しても表記が統一され、エラーを発生しにくくする工夫も必要だろう。入力後、その場ですぐに誤りが分かるような表示も、入力ミスが多い高齢者の手助けになる。
写真/shutterstock