2024年9月1日、ロボットアニメの金字塔『マジンガーZ』が衝撃的な最終回から50周年を迎えます。アニメの最終回は印象的でしたが、マンガの最終回は覚えているでしょうか。あまり記憶にないのも無理はない理由がありました。
雑誌掲載時のバージョンを収録。講談社漫画文庫『新装版 マジンガーZ オリジナルver.』第1巻 著:永井豪とダイナミックプロ ((講談社)
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永井豪先生らしい唐突かつシュールな最終回
1970年代に巻き起こった巨大ロボットアニメブームの元祖にして最高峰の作品が、永井豪とダイナミックプロ原作のアニメ『マジンガーZ』であることは論じるまでもないでしょう。
1974年9月1日に放送された『マジンガーZ』の最終回「デスマッチ!! 甦れ我等のマジンガーZ!!」は衝撃的でした。「Dr.ヘル」の地下帝国を倒したと思ったのもつかの間、ミケーネ帝国から出動した2体の戦闘獣、「グラトニオス」と「ビラニアス」に「マジンガーZ」が徹底的に痛めつけられ、完全に敗北してしまうという内容だったからです。
ロケットパンチはあっさり粉砕され、光子力ビームも戦闘獣には効きません。ジェットスクランダーは引きちぎられ、超合金Zもドロドロに溶かされてしまいました。ミサイルで土手っ腹に穴を開けられ、戦闘獣にひと太刀も浴びせることができないまま、マジンガーZは機能停止してしまいます。そこへ颯爽と現れて戦闘獣を蹴散らしたのが「グレートマジンガー」でした。主人公「兜甲児」とヒロイン「弓さやか」はアメリカへ留学するというラストが描かれています。
同年7月25日に公開された映画『マジンガーZ対暗黒大将軍』も同様の内容でショッキングでしたが、マジンガーZが戦闘獣を何体も倒して最後はグレートマジンガーと共闘した映画版に比べても、完全に敗北してしまったTV版の最終回は衝撃度が大きいものでした。
TV版の最終回が語られることの多い『マジンガーZ』ですが、マンガ版の最終回について覚えている人は意外と少ないかもしれません。それには理由があります。実はマンガ版『マジンガーZ』は最終回がいくつもある上、決定的なものが存在しないのです。その理由と内容について振り返ってみましょう。
『マジンガーZ』のプロジェクトは、アニメとマンガが同時に進んでいました。「週刊少年ジャンプ」(集英社)での連載が始まったのは、TV版放送開始の2か月前にあたる1972年10月のことです。マンガはアニメと似たストーリー展開で進みましたが、女性を裸にして機械獣の人質にする「グロゴス編」など、当時の少年誌らしいハードな展開も見せました。
「マジンガー軍団編」では、「ドクター地獄(ヘル)」との最終決戦のために作られた「ミリオンα」「バイオンβ」「ダイオンγ」が登場し、マジンガーZ、「ビューナスA」(アニメには未登場)とともに「マジンガー軍団」として機械獣の軍団と激突するも、奮闘むなしくいずれも撃破されてしまいます。胸に作られたコックピットの女性ごと、わしづかみにされて握り潰されたミリオンαのやられっぷりが印象に残りました。
マジンガーZは「飛行要塞グール」と「海底要塞ブード」を激突させ、「あしゅら男爵」と「ブロッケン伯爵」を同時に葬り去ります。いよいよドクター地獄との最終決戦が始まる! というところで、「週刊少年ジャンプ」の連載は突如、打ち切られてしまいます。
最終回は作者が登場して「このつづきのストーリーはテレビでやっていくでガスよ」と告知し、さやかも「ウフン さやかにあいたい人はチャンネルまわしてーン」とアピールしていました。永井豪先生の作品らしいといえばらしいのですが、唐突かつシュールな幕切れだったといえるでしょう。
永井先生は何度も加筆修正を繰り返しており、様々なバージョンが存在する。こちらはKCデラックス『改訂版 マジンガーZ』第3巻 著:永井豪とダイナミックプロ (講談社)
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『ジャンプ』連載打ち切りの理由とは?
連載打ち切りの理由はいくつもあります。
「魔神全書:マジンガーバイブル」(双葉社)によると、もともとアニメとの連動企画だった本連載が「ジャンプ」側に歓迎されていなかったこと、アニメが低年齢層に人気を博していたので東映動画とスポンサー側からマンガも低年齢層へのアピールを求められたものの、集英社側と折り合いがつかなかったことなどが挙げられています。こうしてマンガの連載は講談社の「テレビマガジン」へと移りました。
低年齢層向けの月刊誌である「テレビマガジン」の連載は、1話完結形式で約1年続き、最終回を迎えます。マジンガーZが地底帝国ミケーネからやってきた戦闘獣グラトニオスとビラニアスと対峙する展開は、TV版最終回と同じです。
「ダイアナンA」はビラニアスから放たれた千匹の小型ピラニアに全身をかじられて骨だけになり、「ボスボロット」はグラトニオスの超振動波でバラバラにされてしまいます。マジンガーZも破壊されそうになる寸前でグレートマジンガーが登場し、2体の戦闘獣を一蹴しました。甲児とさやかがアメリカへ留学するラストもTV版最終回と同じです。
なお、この回は『マジンガーZ』ではなく『偉大な勇者グレート★マジンガー』というタイトルで掲載されています。実質的な最終回ではありますが、シームレスに次作につながる工夫がされていたと考えるべきでしょう。
ここからまたややこしいことが起こります。この後、マンガ『マジンガーZ』はいくつもの出版社からコミックスが発売されますが、講談社のKCコミックスをはじめほとんどは「ジャンプ」と「テレビマガジン」の連載がシャッフルして収録されていました。しかも、「マジンガー軍団編」は未収録だったのです(「マジンガー軍団編」は、すでに発売されていたKCコミックス版『グレート・マジンガー』の第1巻に大幅加筆した上で収録されていました)。
永井豪先生は後に「原作であるマンガの方はこういってはナンですがいい加減というか、あんまり気の入らないまま描いてたんですよ」「絵の仕上がりもデッサンの狂いも気にするヒマさえないという“殴り描き”に近い状態だったんです」と振り返っています(「永井豪のヴィンテージ漫画館」河出文庫)。時期的に『デビルマン』と重なっており、そちらに力を入れていたため、このような状態になっていたそうです。
その後も、永井先生は何度もマンガ『マジンガーZ』の加筆修正を繰り返しています。こうして振り返ってみると、やはりTV版に準拠した「テレビマガジン」版がもっともマンガ版の最終回としてふさわしいものだといえるのではないでしょうか。「ジャンプ」と「テレビマガジン」の連載順に収録した講談社漫画文庫『新装版 マジンガーZ オリジナルver.』(講談社)がもっとも読みやすいと思われます。