「こんな地獄に連れてこないでくれ」アルコール依存症患者の父が息子に願った心の叫び――漫画『Shrink〜精神科医ヨワイ〜』はなぜ家族の問題を描くのか?

8月31日からNHKにてドラマ化される精神科医・弱井幸之助の奮闘を描いた漫画『Shrink〜精神科医ヨワイ〜』。ドラマ化にあたって依存症の当事者が「毎日が地獄だ」と話したというアルコール依存症の怖さについて、原作者・七海仁さんの話を聞いた。

心の問題は生育歴が大きな影響を及ぼす

――コミックス6巻でアルコール依存症の問題を取り上げています。アルコール依存症の父親が、同じくアルコール依存症の息子について「あいつをこんな地獄に連れてこないでくれ」と弱井先生に懇願するシーンがすごく強烈でした。

七海仁(以下同) 当事者の方たちとお話ししていると、「毎日が地獄だ」という言葉を時々耳にするんです。何を見てもお酒のことを考えてしまう、その欲求と毎日闘っていかなくてはいけない…そういうつらさから出た、とてもリアルな心からの言葉だと思います。

――父親と息子の両方がアルコール依存症に悩んでいる設定はどういったところからきているんですか?

実際にそういうことがあるからです。依存症だけではなく、例えばパーソナリティ障害などでも、実は父親や母親も同じ疾患だったということはわりとあるそうです。そういう状態の親を見て育ったら子どもは絶対にお酒は飲まないだろうと思うかもしれませんが、家庭環境での苦しみもあり、「あんなの嫌だ」と思いながらもお酒に依存してしまうことはあると聞きました。

また、少し重症化している父親と軽症の息子の二人を通して、アルコール依存症の治療の違いを描きたかったというところもありましたね。

――アルコール依存症編だけでなく、『Shrink』では、家族の問題が描かれることも多いですよね。

そうですね。心の問題は本人だけでなく、生育歴が大きく関わっていることが多いので、どのテーマでも常に家族には触れるようにしています。なかには、かなり深刻な、重い・怖いと思われそうなテーマもありますが、「『Shrink』なら、きっとここから明るいほうへ向かうはずだから、続けて読もう」とおっしゃってくださる読者のコメントを見ると、読者さんとの信頼関係が築けている気がしてすごくうれしいですね。

取材・文/森野広明

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「Shrink〜精神科医ヨワイ〜」

原作/七海仁 漫画/月子

2021年5月19日発売660円(税込)B6判/200ページISBN: 978-4-08-891898-3自分がどういう人間なのか確信が持てない不安から、常に虚しさと焦燥感を抱え、他人や自身を傷つけてしまうパーソナリティー障害。その診断を受けた小山内風花は、弱井の冷静な対応に苛立ち別のクリニックに通い始める。新しい医師の対応はまさしく彼女の求めていたもののように思えたが? 精神医療最大のタブーにも迫る!! 休日のクリニックの面々を描く番外編や新章・アルコール依存症編も収録!!