〝替え唄の帝王〟と呼ばれ、一世を風靡した嘉門タツオ(65)。聴く人を盛り上げ、ドッと笑わせる、思わず「鼻から牛乳〜♪」と唸ってしまう熟練の〝ウタ芸〟に迫った!
まずは、カラオケで盛り上げる方法から。嘉門氏は、「笑いには、〝間〟や〝演技力〟も重要」と前置きした上で、自身の経験から次のようなテクニックを教えてくれた。
「もとは、噺家の弟子からスタートしてますからね。宴会に参加したら、どんな方法を使ってでも盛り上げないといけない。シンプルな方法で言うと、素っぱだかになって走り回るとか。それだけでは芸がないから、沢田研二さんの『勝手にしやがれ』を歌いながら、服を一枚ずつ脱いでマッパになるとか、『月の法善寺横町』のセリフの部分を過剰に演じるとか、殿さまキングスの曲を異様なハイテンションで歌うとか、ね。そういう方法を試す中で、盛り上げるコツを経験として学ぶことが大切でしょうね」
ならば、歌で盛り上げ、笑いを取る経験が少ないビギナーはどのような楽曲を選べばいいのか。嘉門氏はズバリ、名作と名高い「なごり寿司」を挙げる。
「あの曲はまず、オリジナルの『なごり雪』を多くの人が知っているので、聴き手の関心をグッと引き込めるし、フリがしっかりと効いてますからウケやすい。あと、テンションをそれほど上げることなく、オリジナル曲と同じように切なく歌うことで、笑いが倍増していく。大した労力を使うことなく、盛り上げることができるでしょうね」
一方で、世代を越え、多くの人に親しまれている「鼻から牛乳」は、あまりオススメできないと言う。
「あの曲は、『鼻から牛乳〜♪』と面白く言えばウケるっていうもんやないですからね。あれは、男女交際における修羅場や日常生活での失態に関するやりとりをシリアスに表現する演技力が重要なんですよ。それで、これ以外はないという絶妙なタイミングで『鼻から牛乳〜♪』と言い切る。言い方も難しくて、後ろめたさの表現としてのフレーズですから、追い詰められて誤魔化すような、怯えているような表情でなければいけない。そう考えると、一般の方が、その場のノリで笑いを取るのは至難の業やと思います」
このように高度な技術が要求される嘉門氏の代表曲。そこで、素人でも応用しやすい歌のテクニックを質問すると、企業の宴会などで使える秘伝の小ネタを披露してくれた。
「今の時代、パワハラやセクハラの関係で難しいかもしれませんが、〝内輪ネタ〟が一番ウケるんですよ。僕がアミューズの有線放送宣伝のアルバイトをしていた時は、歌詞の中に社員の名前を入れてみたり、社内のみんなが感じているあるあるネタなどを入れたりしてましたね。例えば、会社員の方なら、先程の『なごり寿司』の歌詞を、社長さんの人生や失敗談に入れ替えて歌ってみると盛り上がるかもしれません」
百戦錬磨の〝替え唄の帝王〟として、笑いを取る歌唱法を指南してくれたが、自身もいまだに修練を続けていると明かす。
「僕の声に合ってる歌かどうか。完璧に覚えて歌い切れているか。そういう細かな差でウケるネタもウケない時があるんですよ。今度、現代の様々な要素を取り入れた『鼻から牛乳』の令和版篇というのが配信リリース予定なんですけど、色々な微調整を重ねたので歌録りだけで2時間もかかりましたからね。だから、一般の方は笑いを取るより、まずは盛り上げるコツを覚えるところから始めてみたらどうでしょうか」
「チャラリ〜♪鼻から牛乳〜♪」と歌える日までの道のりは遠い‥‥。
嘉門タツオ:59年大阪生まれ。シンガーソングライター。笑いと音楽を融合させた独自のジャンルで活躍。83年リリース「ヤンキーの兄ちゃんのうた」のヒットにより一躍、売れっ子に。91年には「替え唄メドレー」が異例のセールスを記録し、翌年紅白歌合戦に出場。現在は、メディア出演のほか、各地でのライブやユーチューブ、SNSでも積極的に楽曲を発表している。