世界の批評家は、宮崎駿作品よりも高畑勲作品を高く評価しています。「ロッテントマト」のスコアはなんと、脅威の100%を記録していました。
『かぐや姫の物語』ポスタービジュアル (C)2013 Isao Takahata, Riko Sakaguchi/Studio Ghibli, NDHDMTK
【画像】えっ、「ジブリ」だけじゃないの? 実は高畑勲監督が作っていた作品(5枚)
高畑勲監督のこだわり
アメリカの映画レビューサイト「ロッテントマト」(Rotten Tomatoes)が、日本アニメーション映画のベスト100を発表しています。そして、なんとトップ3は、高畑勲監督の作品で独占されていました。
1位:『かぐや姫の物語』(2013年/高畑勲)
2位:『おもひでぽろぽろ』(1991年/高畑勲)
3位:『火垂るの墓』(1988年/高畑勲)
4位:『THE FIRST SLAM DUNK』(2022年/井上雄彦)
5位:『君の名は。』(2016年/新海誠)
6位:『劇場版 呪術廻戦 0』(2021年/朴性厚)
7位:『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』(2020年/外崎春雄)
8位:『魔女の宅急便』(1989年/宮崎駿)
9位:『この世界の片隅に』(2016年/片渕須直)
10位:『千と千尋の神隠し』(2001年/宮崎駿)
批評家によるスコアは、すべて脅威の100%を記録しています。とてつもない高評価です。では、世界における興行収入ランキングはどうなっているでしょうか。
1位:『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』(2020年/外崎春雄)
2位:『千と千尋の神隠し』(2001年/宮崎駿)
3位:『君の名は。』(2016年/新海誠)
4位:『すずめの戸締まり』(2022年/新海誠)
5位:『君たちはどう生きるか』(2003年/宮崎駿)
6位:『THE FIRST SLAM DUNK』(2022年/井上雄彦)
7位:『ハウルの動く城』(2004年/宮崎駿)
8位:『崖の上のポニョ』(2008年/宮崎駿)
9位:『劇場版 呪術廻戦 0』(2021年/朴性厚)
10位:『天気の子』(2019年/新海誠)
どちらのベスト10にもランクインしているのは、『THE FIRST SLAM DUNK』、『君の名は。』、『劇場版 呪術廻戦 0』、『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』、『千と千尋の神隠し』の5本です。宮崎駿作品、新海誠作品が上位にランキングされている一方で、高畑勲作品は1本も入っていません。批評家からの評価はトップ3を独占するほどなのに、歴代の興行収入ではベスト20にもランクインしていないという、逆転現象が発生しています。
確かに「竈門炭治郎」や「銭婆」、「桜木花道」のようなキャラの魅力MAXな作品に比べると、高畑勲作品にそのような面は希薄です。興行成績がふるわないのも理由のひとつかもしれません。しかし、それをはるかに凌駕するほどの、凄まじいアニメーション表現がそこかしこに込められています。
高畑監督はあるインタビューで、「線でひとやものを捉えることについては、僕はずっとアニメではなく絵画について発言しているんです。当たり前ですが、線で縁取られたものをひとは本物だとは思わない。ただ、その線をよすがにして裏にある本物を感じたり認識したりはするわけです」と発言しています。優れたアニメーターでもある宮崎監督と比べて、高畑監督自身は自ら絵を描くタイプではありません。しかし、いや、それゆえに、1本の線、1枚の絵に対する執着は非常に強いものを感じさせます。
『おもひでぽろぽろ』では、淡い色彩でノスタルジーを喚起させる「過去パート」と、ほうれい線ひとつまで綿密に描くリアルな人物造形の「現代パート」を描き分ける実験をしていました。『ホーホケキョ となりの山田くん』では、原作マンガのテイストを表現するために、手書き風のタッチが採用されていました。極め付けは、やはり『かぐや姫の物語』です。制作年数8年、制作費用50億円という破格のスケールで作られた本作では、CGではなく本当に筆で描いたような質感を目指して作られました。
プロデューサーを務めた西村義明さんは、「予告編で姫が疾走するシーンがあるんですけど、あの辺りは全部水彩画で塗っています。アニメーターが描いた何百枚という絵を画用紙に印刷して、一枚一枚手作業で水彩で塗っているんです」とコメントしています。そして、こうも語っています。「狂気の沙汰ですけど」と。
animation(アニメーション)の動詞形animateには、「生命を吹き込む」という意味があります。まさにアニメ作りとは、魂のないものに生命を吹き込む行為といえるでしょう。「ピノキオ」に魂を吹き込んだ人形職人のように、高畑勲監督はアニメーションの登場人物を生き生きと躍動させました。「狂気の沙汰」と言われてしまうほどの完璧主義、それによって産み落とされた比類なき表現に、世界は称賛を送ったのです。