ロボットアニメブームの立役者である『マジンガーZ』。しかし、その最終回は新たな敵に完敗するという辛辣なものでした。どうしてマジンガーZは敗北しなければならなかったのでしょうか。
最終回では文字通り刀折れ矢尽きるマジンガーZ、50年経っても語り草に。「マジンガーZ Vol.8(完)」(東映ビデオ)
【画像】こちらが半世紀経っても語り草になるほどボッコボコ(けど劇場版だから多少はマシ)な「マジンガーZ」です(9枚)
マジンガーZの敗北が当時の子供に与えた衝撃
本日9月1日は、1974年に『マジンガーZ』最終回が放映された日です。今年2024年で半世紀の月日が流れました。いまなお語り継がれることの多い伝説のエピソードについて振り返ってみましょう。
放送当時、一大ブームを巻き起こした『マジンガーZ』、そのピリオドを打つことになった最終回が、第92話「デスマッチ!! 甦れ我等のマジンガーZ!!」でした。放映話数からわかる通り、ここまで1年9か月近く放映されています。これには作品人気が高すぎて、番組を終わらせられなかったという制作側の事情がありました。
しかし、その間にも『マジンガーZ』の次回作の準備は着々と行われており、満を持して次回作となる『グレートマジンガー』へとバトンタッチすることになります。そして、この次回作が『マジンガーZ』の続編となる世界観を持つことから、実質的な主役交代というドラマが用意されることになりました。
この劇的な主役交代劇は後のロボットアニメ作品にも大きな影響を与えており、パロディやオマージュといった形で何度となく再現されています。もはやロボットアニメの古典といったところです。それほどまでにロボットアニメの歴史上、衝撃的なエピソードだったといえるでしょう。
もっとも、この主役交代劇は『マジンガーZ』最終回が初めてではありません。この1か月ほど前の7月25日から公開された、「東映まんがまつり」の1作『マジンガーZ対暗黒大将軍』で同様の展開があったからです。いわばTVに先駆けて、劇場で新ヒーローとなる「グレートマジンガー」はお披露目されていました。
そういった事情から、この新旧主役交代劇は当時の子供の多くが予感していたことです。いままで楽しみに観ていた『マジンガーZ』が終わる……そういった複雑な面持ちで最終回を迎えていた子供がほとんどだったのではないでしょうか。何よりも、これまで子供たちのヒーローだったマジンガーZの決定的な敗北は、多くの子供たちにトラウマを植え付けたといっても過言ではありません。
あれだけ強かったマジンガーZが負けるほどの強敵だった「ミケーネ帝国」の「戦闘獣」、それをも軽々と倒してみせる新ヒーローのグレートマジンガーという構図は、新しい登場人物たちをより大きく見せる演出として決して間違ったものではないでしょう。
しかし、そういった正論だけでは、当時の子供たちの気持ちは計れないモノかもしれません。それは、大筋は同じでも展開の異なる劇場版とTV版最終回を比較することで、鮮やかに浮き彫りになります。それぞれの作品でのマジンガーZの扱いが違う点に注目です。
「超合金魂 GX-70SP マジンガーZ D.C. 2021 Special Color Ver.」(BANDAI SPIRITS) (C)ダイナミック企画・東映アニメーション
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TV版と劇場版では扱いが違ったマジンガーZ
前述したように、ミケーネの戦闘獣によってマジンガーZが敗れ、その危機にグレートマジンガーが駆けつける、というストーリーの流れは、TV版と劇場版とで大きな違いはありません。しかし細かな点を見ていくと、いくつか相違点もありました。
それは、TV版では2体の戦闘獣「グラトニオス」と「ビラニアス」の前に、マジンガーZは完膚なきまでに倒されていますが、劇場版では13体の戦闘獣を相手に何体か撃破している点です。つまり強大な戦闘獣相手にマジンガーZは一矢報いているのでした。
グレートマジンガーもマジンガーZが撃破される前に駆けつけ、ダブルマジンガーの共演という見せ場を作っています。そして劇場版のラスボスにあたる「獣魔将軍」を「ブレストファイヤー」と「ブレストバーン」の合体攻撃で撃破しました。
つまり、劇場版ではマジンガーZは完敗でなく、辛勝ともいえる形になっています。新主人公機であるグレートマジンガーの独壇場ではなく、マジンガーZにもかろうじて見せ場が用意されていました。これによりTV版最終回よりも劇場版を支持するファンが一定層います。
筆者も子供時代から近い意見を持っていました。それゆえにTV版最終回には、モヤっとしたものを今でも感じます。それは、主人公が敗北する最終回でいいのだろうか……という疑問にも通じました。
もちろん最終回に敗北したヒーローといえば、誰もが思い出すだろう『ウルトラマン』があります。他にも最終回で命を落として敵を倒すというヒーローも何人かいました。しかし、それらのヒーローと比べて問題視される点は、旧主人公が新主人公のかませ犬のような扱いになるところです。この点に関してはいまだに納得できません。
もしも『マジンガーZ』の最終回が「Dr.ヘル」との決戦で大団円となり、次回作『グレートマジンガー』第1話で新たな敵によってマジンガーZが敗れるという展開になれば、見方も変わったことでしょう。この展開に近いのが『仮面ライダーV3』第2話での、ダブルライダーの退場劇だと思います。
もっともTV版には、マジンガーZのリベンジマッチが描かれていました。『グレートマジンガー』終盤でのマジンガーZの再登場です。ここでのマジンガーZの戦いぶりは目を見張るものがあり、戦闘獣はもちろんのこと「七大将軍」まで倒す姿は『マジンガーZ』最終回でのうっ憤を存分に晴らすものでした。
続編ゆえの敗北を喫したマジンガーZでしたが、それゆえにリベンジを果たすところも描かれたというわけです。最高のカタルシスといえるでしょう。作品を観続けた子供たちにとってご褒美のようなものです。
もっとも、その活躍が観られたのは1年も先の話でした。あの時の悶々とした日々は、同じくリアルタイムで作品を観ていた人にしかわからないかもしれません。今思えば貴重な体験のひとつでしょうか。