最近のドラマは吹けば飛ぶような薄っぺらい役者に、どこかで見た作り話ばかりでツマらん! こうお嘆きの貴兄に、本誌〝昭和専従班〟がグイ推しするのが「NHK社会派ドラマ」。重量級の役者がこぞって出演、壮大で骨太なストーリーに急所をワシ摑みされた。カネ、オンナ、権力‥‥、剝き出しの人間ドラマを今こそ振り返る!
NHKが作るドラマが朝ドラや大河ドラマなど、「ふるさと創生」を量産する健全なイメージばかりと思ったら大間違い。かつて、昭和の時代は硬派な社会派、おまけに民放顔負けのお色気シーンもふんだんにある名作の宝庫だった!
今回の「シリーズ昭和」は骨太ドラマを掘り下げよう。恒例1000人アンケートの結果はジャジャーン、ページ下部のとおり。
激戦を勝ち抜き見事1位になったのは鶴田浩二主演の「男たちの旅路」だ。
昭和ドラマに詳しい道頓堀プロレスのリングアナ、マグナム北斗氏は語る。
「警備員にスポットライトを当てるドラマでした。戦中派で特攻隊の生き残り・吉岡指令補を演じる鶴田浩二は若者が大嫌いで、すぐに手が出る。研修中の若手にテストを兼ねて『試しに私をみんなで逮捕してみろ』と煽り、取り押さえようとした若手をシバキ倒して骨折させる。自殺しようとした女性を思いとどまらせようと必死に説得し、無事に助けた後、『命を粗末にした』という理由でその女性をボコボコに殴ったりもする。今ならとうていありえないシーンが多くあったね」
同じ山田太一脚本の大ヒットドラマ「ふぞろいの林檎たち」(TBS系)は落ちこぼれの四流大学生たちと大人たちの〝断絶と共感〟を描いたが、本作もメインの若者が非エリートという点では共通している。
「この警備会社に入社するのが結構大変で、体力テストの後、1週間の研修があるんですよ。そんなに必死になって、警察官でもない警備員になるか? と思って見てましたけどね。『ザ・ガードマン』を見て憧れた世代じゃないとその感覚は理解できないでしょう」(マグナム氏)
メインキャストは森田健作(74)、桃井かおり(73)、柴俊夫(77)といった民放では主役を張る豪華メンバー。中でもマグナム氏の注目は水谷豊(72)の軽妙な演技だったという。
「重厚な演技で長ゼリフが名物となっている『相棒』とは全然違う、水谷豊の軽い演技は見もの。『傷だらけの天使』の後ですから。『アニキ〜』って感じの空気をずっと出してる」
ちなみに「男たち─」は現在NHKオンデマンドでのみ視聴可。再放送を願いたいものだが‥‥。
「シーズン4は清水健太郎(71)がメインだから再放送できないどころか、オンデマンドにもない」(マグナム氏)
2位には国民的美人女優・吉永小百合(79)が胎内被爆で余命3年の芸者を演じた「夢千代日記」が入った。マグナム氏が言う。
「日記の朗読から始まり日常的なことが淡々と進んでいくんですよ。特に大きな事件が起きるわけでもないんですが、吉永さんはめったに連ドラには出ないからそれでもいい。あとヒロイン以下、登場人物のほとんどが病弱なんですよね。川崎から殺人犯を追ってきた林隆三演じる刑事まで胃潰瘍で倒れてましたから」
細部にこだわりを見せるキャスティングの妙に作家の亀和田武氏は舌を巻く。
「緑魔子さん(80)がストリッパー役で出てましたがピッタリでした。当時すでに結構なキャリアを積んでいたと思うけど、それでもやっちゃうのがスゴイ」
小悪魔女優でワキを固める布陣こそがNHKドラマの真骨頂なのだ。
(つづく)
【NHK社会派ドラマBEST10】
1「男たちの旅路」(76年)鶴田浩二・水谷豊:364票
警備会社を舞台にした特攻隊で生き残った戦中派と戦後生まれの若い世代との葛藤を描く。警備員が犯罪と事件から市民を守るという準警察官的な役割を理想とするドラマは「ザ・ガードマン」以来。脚本は「ふぞろいの林檎たち」の山田太一
2「夢千代日記」(81年)吉永小百合:289票
胎内被爆し、白血病であと3年の命と宣告された温泉芸者・夢千代が母の残した山陰の小さな温泉町の置屋を女手ひとつで切り盛りする人間ドラマ。夢千代が毎日つづる日記を吉永小百合が朗読して物語が展開していく
3「阿修羅のごとく」(79年)八千草薫:257票
加藤治子、八千草薫、いしだあゆみ、風吹ジュンが演じる四姉妹が父親(佐分利信)の長年にわたる不倫について話し合うところから物語はスタート。一方で、4人はそれぞれに男女関係で事情を抱えていた。リアルな女性の本性が描かれる向田邦子作品
4「けものみち」(82年)名取裕子:254票
生きることに疲れた料亭の仲居(名取裕子)が実業家を名乗る男(山﨑努)にそそのかされて流転の人生を歩むことに。政財界の裏に蠢く悪に光を当てながら、色と欲に目がくらんだ人間たちを描く。松本清張原作ドラマの傑作。脚本はジェームス三木
5「ザ・商社」(80年)山﨑努・夏目雅子:247票
総合商社の安宅産業が、1973年のオイルショックと1975年に破綻したアメリカでの石油事業失敗の実話を元に、石油に取り憑かれた男と、総合商社が崩壊するまでの過程を描いた経済ドラマ。4カ国で海外ロケを行うなどスケールが壮大
6「あ・うん」(80年)フランキー堺:231票
かつての戦友である2人の男と、その狭間で揺れる妻の人間模様を描く。安月給のサラリーマンの水田(フランキー堺)と羽振のいい実業家・門倉(杉浦直樹)が再会。門倉は水田の妻(吉村実子)に密かに好意を抱いていた‥‥。脚本は向田邦子
7「事件」(78年)若山富三郎:222票
人間味あふれる凄腕の弁護士(若山富三郎)が数々の事件を通して、悲喜こもごもの人間模様を浮き彫りにする法廷ドラマ。大岡昇平のベストセラーを元に制作されたが、続編から作家が早坂暁になりシリーズ化された。共演はいしだあゆみ
8「冬構え」(85年)笠智衆:219票
老人、老夫婦の生き方、息子たちとの絆を通して、現代日本の高齢化社会が抱える問題をあらためて探る問題作。「老人は集団自決せよ」などとうそぶく不届きモノのテレビ学者がいるが、是が非でも見返していただきたい。山田太一脚本
9「破獄」(85年)緒形拳:212票
戦中から戦後にかけて、緻密な計画と大胆な行動力で4度の脱獄を繰り返した無期懲役囚とそれを防ごうとした看守。実在の囚人をモデルにした吉村昭の同名小説をドラマ化。囚人と看守との関係を通して、人間の尊厳とは何かを問いかける
10「勇者は語らず」(83年)三船敏郎:207票
城山三郎が原案の経済ドラマ。日本の急速な経済大国化を背景に、大手自動車メーカーのアメリカ現地生産工場進出が描かれる。丹波哲郎、二谷英明、山﨑努など豪華出演が話題に。三船敏郎はNHKドラマ初出演作、寺島純子の女優復帰作品でもある
※アンケートは全国50~75歳男性による。複数回答あり