昭和の仮面ライダーのなかでも異質な存在である「ライダーマン」は、現在ではファンという人も少なくありませんが、昭和の頃はけっして高い評価を得ていたわけではありません。その評価が変わっていった理由とは何でしょうか。
「S.H.フィギュアーツ ライダーマン」(バンダイ) (C)石森プロ・東映
【画像】え…っ?これは強そう これがライダーマンの「カセットアーム」に付けてた危険すぎる武器たちです(7枚)
史上最弱の仮面ライダーの烙印を押されたライダーマン
昭和に登場した「仮面ライダー」のなかで唯一、主人公となったことがない「ライダーマン」の特異な設定とデザインは、昭和ではそれほど高い評価を得られなかったといえるかもしれません。
よくライダーマンのことを酷評する人が指摘するのが、顔下半分が「生身」である点です。しかし、これに関していえば、仮面をかぶったヒーローである仮面ライダーをリアルに考えた場合、デザインとして到達する方向性のひとつだといえるでしょう。そう、仮面のヒーローというリアルさを追求した結果、顔下半分が露出した合理的デザインというわけです。
これには日本のヒーローのほとんどがフルフェイスで、口の見えるヒーローは弱く見えるという風潮があるからでしょう。たとえばアメコミヒーローを見ていくと、それほど弱いという印象は受けません。つまり、ヒーローのデザインに対するお国柄というものでしょうか。
またライダーマンが他の昭和仮面ライダーと大きく異なる点が、主役ライダーとして生まれていないという点です。他の昭和ライダーは、すべて主人公として設定されていました。「仮面ライダー2号」も、「仮面ライダー1号」の代わりとして生み出された主役ライダーです。その点でも、ライダーマンは得意な設定を持つヒーローでした。
ライダーマンの設定は紆余曲折ありましたが、基本的に番組タイトルにもなっている「仮面ライダーV3」を助けるヒーローとして生み出されています。これもまたライダーマンを、仮面ライダーのなかで唯一無二の存在としている点でしょうか。
もっとも、こういった好意的解釈は現在だからいえることかもしれません。放送当時、昭和におけるライダーマンの評価は高くありませんでした。かくいう筆者も、子供時代は「弱い」という印象をぬぐえていません。少なからずファンがいたのは間違いないですが、他のライダーと比べて人気がなかったといえるでしょう。
ところが、大人になるにつれて筆者のライダーマンに対する評価が変わっていきました。これは自分の周囲でも同じで、子供のころには分からなかったライダーマンの魅力が、少しずつ理解されてきたというところでしょうか。
もしかしたら、時代がライダーマンというヒーローに追いついたといえるかもしれません。なぜならば21世紀以降に誕生した仮面ライダーたちを見ると、ライダーマンとの共通点がいくつか見えてくるからです。
ライダーマンもパッケージに映る『仮面ライダーV3』 Blu-ray BOX 3巻(東映)
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現代だからこそ高い評価を得るライダーマン
いわゆる「平成仮面ライダー」シリーズでは、昭和の頃にはなかった要素がいくつか組み込まれたといわれています。
そのひとつが、作品のなかに複数の仮面ライダーがレギュラーとして活躍するシステムでしょうか。主人公のライダーが、いわゆる「2号ライダー」や「3号ライダー」と呼ばれるポジションのライダーと、一緒に戦うのが定番です。これは昭和と違って、作品ごとに「違う世界観」だからというのが大きな理由でしょう。つまり作品を超えて過去のライダーが出ることは、基本的にはありません。
劇場版といった、お祭り展開のみが例外でしょうか。むろんメモリアルとして過去の主人公ライダーが登場する展開は、皆無ではありません。しかし、基本的に作品外のライダーの共演がないゆえに、作品内に複数のライダーがいるという建付けになっているのでしょう。
そう考えると、ライダーマンは昭和の時代に平成作品のようなシステムを成していた唯一無二のヒーローだったといえるかもしれません。そして、このことがもうひとつの平成ライダーの特徴と合致します。それが異なる正義を持っているがゆえに、ライダー同士が戦うことになる、「ライダーバトル」でしょう。
ライダーマンは悪役ではありませんでしたが、主人公であるV3とは異なる価値観を持っていたため、争うこともありました。複数回にわたって繰り返されたお互いの信じるもののために戦うさまは、現在ではライダーシリーズの定番展開のひとつです。
このほかにも強引な接点かもしれませんが、右腕の「カセットアーム」を状況に応じて交換して戦うスタイルも、現代のライダーのフォームチェンジの元祖とも考えられるでしょう。また完全な改造人間でなく、強化服をまとった人間という点も共通項かもしれません。
こうして振り返ってみると、ライダーマンと21世紀以降のライダーとの共通点は多く、現在の時代が求めたヒーロー像だった可能性もあります。ライダーマンというヒーローが理解されるには、時代が早すぎたのかもしれません。
ちなみにこのライダーマンに関して、実は変身前の「結城丈二」が21世紀以降にリブートされたことがありました。それが映画『仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー』に登場した、別の世界の結城丈二です。この映画には本来の世界に近い世界のライダーマンも登場していますが、彼とは別人ということになっていました。
ここで結城丈二を演じたのが、TV版『ディケイド』と映画の主題歌を担当したGACKTさんです。当初はマスクをかぶらず、レザースーツとサングラスのみのライダーマンとして出演を検討されていたとのことでした。そのため、本編のライダーマンのカットは後から取り足したものだったそうです。
こういったリブートは賛否が分かれるところだったでしょうが、ライダーマンという存在は時代を超えて新しいことに挑戦できる役だったのかもしれません。「ライダーマン/結城丈二」というキャラクターの持つ背景や設定は、現代だからこそ高い評価を得られるヒーローなのでしょう。
平成以降の仮面ライダーは、主人公以外ライダーとしてカウントされないということが定番化した現在、ライダーマンは唯一無二の冠番組を持たない仮面ライダーです。デザインだけで甘く見られる存在ではないということです。