ヒトでの発がん性は実証できていない

焦げとがんの関係性が曖昧な理由を、シンハ氏は次のように説明しています。

「焦げががんの原因になると断言するには臨床試験が必要です。

しかし発がん性が疑われる物質を使って、ヒトで実験するわけにはいきません」

しかも、これらの物質を数日間摂取したからと言って、すぐにがんになるということはないでしょう。

実際これまでに行われてきた研究も「健康な参加者を10年、20年と観察し、がんになった人と健康な人との違い(食品の調理法など)を比較する」というものでした。

いくらかの傾向は分かるかもしれません。

しかし私たちが日々の食事で摂取する焦げの量はわずかであり、その個人差が本当にどこまでがんに影響したのかをはっきりと理解することは難しいでしょう。

さらにこれまでに行われてきたヒト観察の他の研究結果もまちまちです。

「発がんのリスクはほとんどない」と結論付けたものもあれば、真逆の結論もあるのです。


食べるなら黄金色のトーストがおすすめ / Credit:Depositphotos

では結論として、私たちは焦げた食品とどのように向き合っていけば良いのでしょうか?

シンハ氏は次のように述べています。

「焦げで作られる物質が正式に発がん性物質として指定されるにはまだ時間がかかるでしょう。

しかし、潜在的なリスクを軽減させることはできます。

主に、肉や野菜、パンなどを高すぎる温度で調理するのはできるだけ避けましょう。

また焼く以外の調理法もいくつか取り入れてください。

もし焼いたり揚げたりするのであれば、できるだけ暗褐色や真っ黒になるのを避け、黄金色でとどめておきましょう。

そして真っ黒になトーストに関しては、そのまま食べるのではなく、新しいパンと交換するサインだと考えてください」

全ての焦げを気にする必要はありませんが、真っ黒な焦げだけは「発がん性物質かもしれない」と考えるのが丁度良いのかもしれませんね。

※この記事は2021年11月公開のものを再掲載しています。

参考文献

CAN BURNT TOAST CAUSE CANCER? A DOCTOR EXPLAINS THE TRICKY SCIENCE
https://www.inverse.com/science/is-it-okay-to-eat-burnt-toast

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

やまがしゅんいち: 高等学校での理科教員を経て、現職に就く。ナゾロジーにて「身近な科学」をテーマにディレクションを行っています。アニメ・ゲームなどのインドア系と、登山・サイクリングなどのアウトドア系の趣味を両方嗜むお天気屋。乗り物やワクワクするガジェットも大好き。専門は化学。将来の夢はマッドサイエンティスト……?