キャッシュレス払いだと現金払いより「支出が増えてしまう」と判明! / Credit: canva
お買い物は今や、何でもかんでもスマホやクレカでパパッと支払える時代になりました。
もしかしたら「最近はあまり財布を持ち歩かなくなった」という方も多いかもしれません。
確かにキャッシュレス支払いには「わざわざ現金を持たなくていい」「決済がスムーズ」「衛生面でリスク回避できる」などのメリットがたくさんあります。
しかしキャッシュレスは便利である反面、あなたの貯金をむしばんでいるかもしれません。
このほど、豪アデレード大学(University of Adelaide)の研究で、あらゆるキャッシュレス支払いは現金払いに比べて、お金の支出額が多くなることが判明したのです。
ただし、この問題はキャッシュレス決済に慣れてくると解消されていくようです。
研究の詳細は2024年5月29日付で学術誌『Journal of Retailing』に掲載されています。
目次
キャッシュレス払いだと支出が増える!現金を払うとき、人は「心理的な痛み」を感じているキャッシュレス決済に慣れると支出は減っていく
キャッシュレス払いだと支出が増える!
ここ10年の技術の進歩に伴い、お金を支払う方法は世界的にガラリと変わりました。
スマートフォンのPayPayアプリやクレジットカードによって、現金を使うことなく簡単に支払いが済ませるようになったということは誰もが実感していることでしょう。
これに加えて、ネットを介した後払い方式や仮想通貨決済もキャッシュレスの新たな選択肢となっています。
さらに現金離れの流れは2019年末に始まったコロナパンデミックによって加速しました。
お札や釣り銭の受け渡しに衛生面でリスクがあることから、現金払いの回避が世界的に進んだのです。
ただキャッシュレス決済は便利ですが、現金決済に比べてお金の使い方を雑にするのではないか? という危惧を抱いている人は多いでしょう。
では、実際お金の支払い方が変わったことで人々の支出額に何らかの変化はあったのでしょうか?
キャッシュレス払いで支出額に影響は? / Credit: canva
それを明らかにするために今回の研究チームは「支払い方法」と「消費行動」に関する過去40年以上の研究報告(世界17カ国、計1万1000人以上を調査した71件の研究)をメタ分析しました。
40年前にもキャッシュレス決済があったの? という人もいるかもしれませんが1980年代にはクレジットカードやデビットカードの利用が始まっています。
40年前の研究もあることからわかるように、キャッシュレス決済方法が消費者の支出行動に影響を与えることは古くから知られており、これは「キャッシュレス効果(cashless effect)」と呼ばれています。
今回のメタ分析では、キャッシュレス払いが現金払いに比べ、一貫して消費者の支出額を高くさせていることが判明しました。
またこの効果は、キャッシュレス決済方法の特性からは影響を受けないことが示されていて、スマホアプリやクレジットカード、デビットカードや後払い方式のどれであっても、現金払いよりお金をより多く使っている傾向が見つかりました。
ではキャッシュレス決済だと、支出が増えてしまう理由はなんなのでしょうか?
研究者たちは、この効果が起こる根本的な原因として「支払うことの痛みが減るからだ」と説明しています。
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現金を払うとき、人は「心理的な痛み」を感じている
「支払うことの痛み(Pain of paying)」は1996年に初めて提唱された説であり、みなさんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
これはごくシンプルな説で、私たちが現金で支払いをするときに「心理的な痛み」を感じているというものです。
現金で買い物をする際、私たちは財布から紙幣や硬貨を物理的に数えて相手に差し出さなければなりません。
人間は自らの損失を避けようとする生き物ですが、現金払いだと実際に形あるお金が自分の手から離れていく様を目にする必要があります。
これが「心理的苦痛」というネガティブ感情を引き起こすのです。
しかも、現金払いにおける「支払うことの痛み」は何も比喩的な例えではありません。
米ボストン大学(Boston University)が2017年に、現金払いをする消費者の脳活動をfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いてリアルタイム観察したところ、心理的不快感の経験に関連する脳領域が実際に活性化することが記録されました(SSRN, 2017)。
つまり、私たちは現金払いをするたびに意識的にせよ無意識的にせよ、心理的苦痛を感じることで、現金払いでは支出を減らしたり、避ける行動につながりやすいのです。
現金払いだと「支払うことの痛み」から支出が減りやすい / Credit: canva
これと対照的に、キャッシュレス払いはデータ上だけのやりとりなので、自分がどれくらい払っているかの実感が湧きづらくなっています。
そこではスマホやクレカをパッとかざすだけで決済が完了するので、形あるお金が手元から離れる様を見ることもありません。
こうしてキャッシュレス払いでは「支払うことの痛み」が生じにくくなるために、気が大きくなって、支出もどんどん増えてしまうと考えられるのです。
そのため分析の結果では、他人の目を意識したステータス目的の高額な買い物(顕示的消費)において、キャッシュレス効果は大きくなることが示されています。
これは例えば高級ブランドのバッグや時計の購入や、高級レストランで食事などを指します。
こうした問題は心当たりのある人も多いでしょう。
ただ、今回の研究ではキャッシュレス効果について、他に興味深い傾向も示されていました。
それが時間経過に伴ってキャッシュレス効果が弱まっていく現象です。