野球マンガは、昭和の時代から現在に至るまで、人気を集めやすいジャンルのひとつといえるでしょう。努力をすれば報われる、いわゆる「スポ根」を描いた作品が多いなか、昭和には、もはや野球マンガとは思えない常軌を逸した作品も登場しました。
伝説の超絶格闘野球マンガ『アストロ球団』のすべてを、作画担当「中島徳博」や担当編集者たち、「みうらじゅん」ら愛読者たちが熱く語った『アストロ球団メモリアル』(太田出版)
【画像】え、実写版の美脚すっご! こちらが野球マンガ『野球狂の詩』の女性プロ野球選手「水原勇気」の可愛すぎビジュアルです(4枚)
野球マンガなのに次々と死者が?
マンガ作品には、さまざまなジャンルが確立されています。なかでも、昭和の時代には数多くの「野球マンガ」が人気を博しました。有名な作品で言えば『巨人の星』や『ドカベン』などが挙げられるでしょう。やはり、球を変幻自在に操る「魔球」の数々が野球マンガの見どころのひとつでもあり、常人では到底及ばないワザに読者は魅力を感じたものです。しかし、なかには、常軌を逸した設定やワザなどが登場し、「野球」の域を超えてしまった作品も数多くありました。
「常軌を逸した」というテーマで、多くの人が思い出す作品は、1971年から1974年まで「週刊少年ジャンプ」(集英社)にて連載された『侍ジャイアンツ』(作画:井上コオ/原作:梶原一騎)でしょう。巨人軍に入団した主人公「番場蛮」が、あらゆる魔球を駆使しながらエースとしての活躍が描かれました。そして、最終話で描かれた番場のラストは衝撃的過ぎるものでした。
優勝がかかった大一番で、ライバルである「大砲万作」と対峙した番場は、疲労困憊のなかでも構わず、体に負担がかかる「分身魔球」を投げて万作を見事に打ち取ります。これでハッピーエンドかと思いきや、番場は体を酷使しすぎたことが影響し、心臓麻痺で立ったまま絶命するのでした。そもそも人は病で立ったまま息を引き取ることが可能なのか定かではないですが、野球マンガとは思えない衝撃的なラストといえるでしょう。
続いて、作中の「魔球」のネーミングで驚かされたのは、『どろんこエース』(作:一峰大二)に登場した「原爆超球」です。主人公「富士たかし」による魔球のひとつで、ボールを投げた際に土けむりを巻き起こし、そのなかから、急にボールが飛んでくるというワザです。土けむりの様子が、原爆の爆発時のような「きのこ雲」になることから、この名がつけられました。
多くの悲劇を生み出した兵器である「原爆」を作中に用いることに対し、「不謹慎だ」と感じる読者も少なくないでしょう。同作は1966年から「少年画報」(少年画報社)で連載された作品で、現代ほど規制が厳しくなかった昭和の時代とはいえ、度が過ぎた表現に思えます。
設定面で、さらに常軌を逸したワザの数々が描かれ、野球マンガの範疇(はんちゅう)を超えた作品といえば、やはり、1972年から「週刊少年ジャンプ」で連載された『アストロ球団』(原作:遠崎史朗/作画:中島徳博)は外せないでしょう。
同作は、伝説の大投手「沢村栄治」の魂を受け継いだ、超人的な身体能力を持つ「アストロ超人」たちが、「打倒アメリカ大リーグ」を掲げて、最強の野球チームを目指すという物語です。
設定から分かる通り、作中では、理解が追いつかないほどのトンデモ魔球が描かれます。例えば、必ずバッターの方に向かっていき、当たれば重傷を負う「ビーンボール魔球」や、ボールがL字のように移動する「殺人L字投法」などが登場します。空振りさせて打ち取るというよりも、デッドボールによってバッターを倒すという傾向があり、酷い時では、魔球によって死者が出ます。野球を通した戦いではあるものの、死が隣り合わせのデスマッチなので、内容的にはバトルアクションに近いものがあります。
ほかにも、本当のルールなら完全NGのはずなのに、咎めることなく普通のプレイとして扱われているものもあります。例えば、アストロ球団のメンバーが一塁に向かう際、敵チームが行った、総出で上空から襲いかかる「人間ナイアガラ」というワザは、明らかに走塁妨害です。とはいえ、「魔球」のほとんどの投球方法はボークに当たるので、この指摘は野暮なのかもしれません。
ちなみに最終話は、新天地を目指して、アフリカのマサイ族によって組まれた野球チームと戦うことになったところで幕を閉じました。ここで、アストロ球団のメンバーが「アフリカ!!」と叫ぶ場面は、あまりにシュールで、いまだに語り草となっています。
『愛星団徒 激闘!コスミック・ファイトの章』第6巻(グループ・ゼロ)
(広告の後にも続きます)
SF要素に加えて性的描写も登場する野球マンガ
『アストロ球団』よりもスケールが大きい世界観の野球マンガといえば、『スーパー・プロ野球軍団物語 愛星団徒』(作:松田一輝)が当てはまるでしょう。最終的に舞台が宇宙にまで発展し、なぜか、野球を通して戦いが繰り広げられます。
地球から5万光年も離れた「アストロン星」は悪魔「ネブラ」の脅威によって、神である「アウロア」の聖典に基づいて9人のいけにえが捧げられ、その9人の命を宿した隕石が地球に落下します。それから18年後に彼らは超人的な能力が覚醒し、野球の世界に踏み込むという物語です。ちなみに、ラストではネブラの手下と野球を通して戦う様子が描かれています。
常軌を逸した部分は、やはり主人公「鷹王旭(たかおう あきら)」の能力で、球を軽く投げただけでも150kmを超え、本気で投げた場合は壁に穴が開くほどの威力が生じます。その後は820kmに及ぶ「光球」を投げられるようになっており、次元を超えた能力を発揮します。
さらに特筆すべき点は、野球マンガでは珍しく、性的描写が登場するところでしょう。同作は成人向けの「週刊プレイボーイ」(集英社)で連載されていたこともあり、作中では男女の情事が何度も描かれています。
例えば第1巻の3話では、球団「ジャガーズ」のオーナーの娘である「真理亜」は、ジャガーズへの入団が迫った「長縞」と性行為に及ぶ場面が描かれています。SFに野球、さらにエロ要素も含んだ『愛星団徒』は、ほかに例を見ない野球マンガと言えるのではないでしょうか。