ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、9月2日から日本国内におけるPlayStation5の値上げに踏み切った。希望小売価格6万6980円だったものが、7万9980円となったのだ。2020年11月の発売当初の価格は5万4978円。4年ほどで2万5000円近く上昇したことになる。大幅な価格改定に踏み切った背景に、3つの要因が複合的に絡み合う姿が浮かび上がる。
販売見通しに対する四半期の進捗率は13%
今回の値上げに関して、ソニーは部材や製造、物流コストの高騰など経済情勢の変動を鑑みて決断したと説明している。これはその通りで、実はPlayStation5は製品単体では赤字なのだ。
ソニーは2023年度の決算発表において、2024年度のゲーム&ネットワークサービス分野の見通しを示す際、「販売台数減少によるハードウェアの損失縮小」で営業利益にプラス効果が働くと説明していた。
販売台数というのは、もちろん主力ゲーム機PlayStation5が大部分を占める。
PlayStationはソフトで利益を獲得するビジネスモデルだ。グループ内で開発したソフトを販売するものはもちろん、PlayStation Storeで扱う他社製品には手数料として30%を徴収する仕組みが設けられている。
つまり、ゲーム機単体で赤字だったとしても、PlayStationを世に広めてソフトの流通数が増えれば、儲かるという仕組みなのだが肝心のゲーム機本体の販売台数が伸び悩んでいる。
2024年3月期のPlayStation5の販売台数は2080万台。PlayStation4が発売から3年目を迎えた年の年間販売台数を上回った。しかし、PlayStation5は半導体不足で流通量が滞った時期がある。販売から3年経過した年度の累計販売台数で比較をすると、4が6000万台、5が5920万台だ。
今期は前期よりも1割以上少ない1800万台を計画しているが、すでにピークを過ぎてしまった感は否めない。
しかも、2024年4-6月の販売台数は240万台で、今季の計画に対する進捗率はわずか13%。販売台数計画の下方修正も視野に入る数字だ。
なお、2024年3月期は2500万台を計画していた。2023年4-6月の販売台数は330万台で、同じく進捗率は13%。この期の販売実績が予想を大幅に下回る2080万台だったのは見てきた通りだ。
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これまでは円安による利益押し上げ効果で誤魔化すことができていた?
円高の悪夢も牙をむく。
ソニーのゲーム&ネットワークサービス分野は、2024年3月期の営業利益が前期比16%増の2902億円だった。402億円の増益だったことになるが、そのうちの386億円(96%)が為替の影響によるものなのだ。
日本銀行は7月31日の金融政策決定会合で0.25%政策金利を引き上げた。8月5日には一時1ドル141円まで円高が進行している。
ソニーは8月7日の2025年3月期第1四半期決算発表において、急速な円高について言及しており、その一部を引用する。
“8⽉以降にドル円が 10 円円⾼に振れ、ユーロ円もこれと同様に動いたと想定すると、為替感応度としては連結ベースで 700 から 800 億円損益が悪化することになるが、為替変動前に⼀部為替予約もしており、製品の価格調整やコストの⾒直しも実施するので、この感応度分析の数字が業績に直接的に影響するとは考えていない。”
円高がPlayStationの価格改定につながっているのは明らかだ。
ソニーはゲーム&ネットワークサービス分野の今期の営業利益を前期比7%増の3100億円と、増益予想を出している。円安による差益に期待ができないとなれば、値上げをする以外に手が打てなかったということだろう。
急速な円高による営業利益へのマイナス効果が抑えられるというのはその通りかもしれないが、増益効果が働かないという点は見逃せない。下半期からの値上げで、今期1割近い営業増益を達成できるのかは注目のポイントとなるだろう。
為替に関連する別角度のもう一つの問題点として、訪日外国人によるゲーム機の持ち帰りがあった。PlayStation5はアメリカだとおよそ500ドルで販売されている。1ドル145円換算で7万2500円だ。値上げ前の日本価格は6万6980円。インバウンド需要が盛り上がると、ソニーは結果的に損をするということにもなりかねない。
ドル目線だと、今回の値上げは適正価格に戻ったといえそうだ。