「観客席や画面から2人のプレーを見ていて、ただただ悔しかった」
3バックの左ストッパーで積極的にボールに関わってゲームをコントロールする鈴木淳之介と、今季5ゴールを挙げているストライカーの鈴木章斗。湘南ベルマーレで存在感を増す21歳の2人に、ライバル心を燃やす選手がいる。同じく2003年生まれのDF松村晟怜だ。
左足の高精度キックを主武器とする松村は、22年に帝京長岡高から湘南に加入。同年に鈴木淳が帝京大可児高から、鈴木章が阪南大高から湘南に加わり、同い年の同期として、ここまで3シーズンの間、切磋琢磨を続けてきた。
同期3人組の中で、最も早く頭角を現したのは鈴木章だった。プロ初年度は2試合の出場に留まるも、2年目に27試合・3得点を記録。3年目の今季は守備力が向上し、先発の機会が増え、チームの中心的な存在となっている。
次いで出番を増やしたのが、鈴木淳だ。ルーキーイヤーはほとんどメンバーに絡めず、2年目も5試合のみの出場だったが、今季は主戦場としていたアンカーやサイドボランチ(インサイドハーフ)から3バックの一角にコンバートされると、才能が開花。夏頃からボール保持率を高めるチームにおいて、欠かせない選手になるまで成長した。
そのなかで松村は、プロ入りから現在まで、ポジションを掴めないでいた。22年は4試合に途中出場するも、同じ左利きの杉岡大暉(現・FC町田ゼルビア)や大野和成との定位置争いに勝てず。23年もリーグ戦で出番を得られなかったなかで、9月に左膝内側の半月板を損傷し、長期離脱を強いられた。
松村は、自身が出場できないなかで同期の2人が結果を残していく姿をどう見ていたのか。本人が苦境の時期を回想する。
「“なんで出られないんだ”という気持ちよりも、自分の武器を出せていなかったところにもどかしさがありました。出られない理由は明白だった。
自分が2人に劣っているとはまったく思っていません。ただ、どうやって自分の持ち味を出せるか、落ち着いてプレーできるかというところで、さらに成長できないとスタメンの機会は巡ってこないのも理解しています。そういった課題に目を向けて、淳之介や章斗のように先発で出て、チームに貢献していきたいです」
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そして諦めずにトレーニングに取り組み続けた結果、ついに2年ぶりのJ1での出番を得る。29節の敵地でのサガン鳥栖戦(2-1)。1-0で迎えた79分に、鈴木淳との交代で、左ストッパーとしてピッチに立った。
久々の出場で若干の固さが見られたものの、松村はわずかな時間で武器を振るった。守備で184センチの長身を活かしてボールを跳ね返すと、ビルドアップでは正確なボールを配給する。特に、自らドリブルで運んで、左足で鋭い楔を打ち込んだ83分のプレーは、背番号32の特長が詰まったシーンだった。
台風の影響で試合の3日前に移動し、準備にも難しさがあった鳥栖戦だったが、松村は手応えを得られたと語る。
「悔しさを普段の練習にぶつけて成長できたからこそ、出番を得られたのかなと。途中出場の時、(山口)智さんが『自分の持ち味を出してこい。守備では入れ替わらないことと、エリア内で足を出さないこと』と、やるべきことを明確にしてくれたし、久々のリーグ戦でいつも以上に気合が入っていたので、チームの勝利も含めて爪痕は残せたのかなと」
鳥栖戦での好プレーの背景には、今季から同ポジションにコンバートされた鈴木淳との研鑽の成果でもあるという。
「淳之介はライバルであり、プレーを見て参考にしている選手でもある。練習でも2人で“こうした方が良いよね”と話し合ったりしていますし、一緒に自主練習をしたりもする。良い関係性を築けています」
ピッチ上ではライバルでも、オフには3人で遊びに行くほど仲が良い。同期として互いを刺激し合いながら、さらなる成長を誓う。
取材・文●岩澤凪冴(サッカーダイジェスト編集部)
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