ハゲワシも人間のように年をとると自分のやり方に固執し友人が減っていく / Credit:clip studio . 川勝康弘 / ハゲワシも人間のように年をとると自分のやり方に固執し友人が減っていく

冒険好きで好奇心の塊だったような少年が、新しいものを嫌う頑固な老人になってしまう、あるいは若い頃は多くの人々と交友のあった青年が、老化とともに人づきあいを控えてしまう…

こうした老化に伴う行動変化は、人間固有のものではなく比較的長い寿命を持つ社会的動物たち全般に共通する現象の可能性があるようです。

イスラエルのテルアビブ大学(TAU)の研究チームは、人間の老化にみられる行動変化がハゲワシでも確認されたと報告しました。

しかし、なぜ年齢を重ねた動物たちは似たようなパターンをみせるようになるのでしょうか?

それは脳科学的に説明がつく現象なのでしょうか?

研究内容の詳細は2024年8月20日に『PNAS』にて掲載されました。

目次

行動パターンにも老化が影響を与えているハゲワシも老化により行動パターンと友達が固定化する加齢による行動変化が起こる理由

行動パターンにも老化が影響を与えている


行動パターンにも老化が影響を与えている / 行動パターンにも老化が影響を与えている/Credit:clip studio . 川勝康弘

老化による変化は、細胞やDNAなど生物学的なもの以外に、行動の変化となって現れることが知られています。

たとえば人間の場合、年を取るにつれて生活様式が固定化し、同じような場所で同じような行動を続けがちになります。

また同様の固定化は思考パターンや好みにも起こります。

若い頃は新しい思想や概念に敏感でしばしば転向を繰り返してきた人々も、年齢と共に固定され、新しい思考パターンを採用するのが難しくなっていきます。

しばしば老人が頑固と見なされてしまうのも、背後にはパターンの固定化が影響していると考えられます。

また昔は色んな音楽を探して、好みの曲を組合わせてマイリスト作りに躍起になっていた人も、最近の音楽については興味を示さなくなってしまいます。

さらに交友関係の幅広さが失われ、限られた交友関係の中に身を置きがちになります。

量より質に目覚めただけならば、限られた交友関係も中身の入れ替わりが起きるはずですが、実際には人員の固定化が進行してしまいます。

老人に新しい親友ができないわけではありませんが、若い頃にくらべてその頻度は著しく低下しています。

このような変化は「加齢による行動変化」の一種として知られており、どの文化や宗教に属するかにかかわらず、人間全体にみられる現象として知られています。

ただこのような加齢による行動変化が巨大な脳を持つ人間特有のものであるか、あるいは他の種にも当てはまる共通現象であるのかは、不明なままでした。

そこで今回、テルアビブ大学の研究者たちは、比較的長命な鳥類として知られるシロエリハゲワシを観察することで、加齢による行動変化がハゲワシたちにも現れるかを調べることにしました。

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ハゲワシも老化により行動パターンと友達が固定化する


ハゲワシも老化により行動パターンと友達が固定化する / ハゲワシにも人間と似た老化による行動変化がみられました/Credit:Canva

他の種にも人間のような加齢による行動変化が現れるのか?

調査を行うにあたり研究者たちは、長年にわたりGPSで位置が特定されてきたシロエリハゲワシのデータに着目しました。

シロエリハゲワシは15年以上もの比較的長い寿命を持ち、高い社会性を持つ鳥類として知られています。

テルアビブ大学があるイスラエルにおいてシロエリハゲワシは保護の対象となっており、15年間に渡り生息数の3分の2に及ぶ142匹についての移動データが保存されていました。

研究者たちはこのデータを分析することで、年齢を重ねたハゲワシたちにどのような変化が起こるかを調べることにしました。

「位置データだけで何が解るのか?」と疑問に思うかもしれません。

しかしそこはハゲワシたちの生態を知れば納得できるでしょう。

シロエリハゲワシたちは死骸を見つけると、その近くにねぐらを陣取り、数日間にわけて餌を食べ続けます。

またねぐらは一種の「情報ハブ」として機能しており、ハゲワシたちは仲間について飛んでいくことで死骸の位置を常に把握できるようになります。

その過程で親しい個体同士はねぐらを共用しやすくなり、敵対関係にある個体同士では時には追い出しも行われます。

そのためあるハゲワシがどのねぐらを使用しているかを調べることで、行動パターンや一緒に行動する頻度の高い個体(親友)の特定も可能になるのです。

そして分析の結果、ハゲワシの行動パターンや交友関係は人間と同じく、若い頃はバリエーションに富んでいたものの、年齢を重ねるごとに固定化していくことが明らかになりました。

たとえば5歳以下の若いハゲワシは頻繁にねぐらを変え、同じ場所で2晩過ごすことはほとんどありませんでしたが、老齢になるにつれ彼らは自宅といえるホーム拠点に引き籠るようになりました。

また引き籠りに連動して交友関係も偏り、特定の個体と過ごす時間が著しく増加していきました。

具体的には、最も親しく交流する個体(親友)の数は若い頃と変わりませんでしたが、雑多な知り合い(広い意味での友達)と交流する時間が大幅に減少していたのです。

研究者たちも「老齢のハゲワシは自分のやり方に固執し、社会的関係が弱くなっている」と述べています。

この結果はハゲワシにも加齢による行動変化が存在しており、老齢のハゲワシたちは老齢の人間と同じように、行動パターンと交友関係の固定化を引き起こしていたことを意味します。