ドラマ『ガンニバル』での熱演も記憶に新しい柳楽優弥さんが、実写映画『夏目アラタの結婚』では「死刑囚と獄中結婚をする」という、とんでもない選択をする児童相談員に扮しています。そんな柳楽さんの演技力は、「まともな正義感もある」劇中の役からも分かるのです。



映画『夏目アラタの結婚』ポスタービジュアル (C)乃木坂太郎/小学館 (C)2024映画「夏目アラタの結婚」製作委員会

【画像】え…っ? やっぱ「トッシー」の格好は笑っちゃうって こちらが役のふり幅が凄すぎる「柳楽優弥の実写版キャラ」です(9枚)

「怖い」「威圧感」を覆す理由がある

 2024年9月6日に、乃木坂太郎さんのマンガを原作とした実写映画『夏目アラタの結婚』が劇場公開されます。本作の注目ポイントは「死刑囚との獄中結婚から始まる危険な駆け引き」を描くサスペンス映画かつラブストーリーであることと、そして主演の柳楽優弥さんの存在です。

『ガンニバル』で見せた暴力性

 主人公の夏目アラタは「死刑囚と獄中結婚をする」とんでもない選択をしてしまう一方で、「殺された父親の死体の頭部を見つけたい」と願う少年のために行動する、正義感も持ち合わせている児童相談員です。

 そういった「(発想が)ヤバい」「(倫理観は)まとも」という、相反する要素が同居している主人公像に、柳楽優弥さんがハマることはすでに証明済みともいえます。何しろ、2022年末より「Disney+」で配信スタートしたドラマ『ガンニバル』では、柳楽さんが演じる駐在(警察官)「阿川大悟」は、表向きには人付き合いがちゃんとしていて、確かな家族への愛情もあることが分かる一方で、「食人」の疑いがある村人へ過剰な暴力性を見せる場面もある、という役柄だったからです。

 その『ガンニバル』の劇中で、田舎特有の不条理なまでの同調圧力を目の当たりにした大悟が「めんどくせぇ~」と言う姿には共感もできますし、時には「ボケカスが!」「バカタレが!」と村人を罵倒し暴力も振るうさまには、いい味で引いてしてしまう部分もありました。

 他にも、2016年の映画『ディストラクション・ベイビーズ』では、柳楽さんは息を吸うように暴力を振りかざす、いっさいの感情移入を阻むモンスターと呼べる男「芦原泰良」に扮したこともあります。こちらは柳楽さんという俳優のあらゆる要素が、暴力という一点に注ぎ込まれた役柄ともいえるので、覚悟の上で観てみるといいでしょう。

ルックスから感じられる「威圧感」「怖さ」を覆す役も

 柳楽さんがそうした危うさのある役に似合う理由は、ルックスのおかげもあると思います。太い眉毛と鋭い眼差しからは、「威圧感」「怖さ」をストレートに感じられます。

 それと同時に人として惹かれる魅力も柳楽さんにはありますし、威圧感や怖さとは真逆の印象の役を演じることもあります。たとえば、2004年の初主演映画『誰も知らない』では年相応の幼さがありながらも、ときには利発で優しくも見える少年「福島明」を自然体で演じていました。また、2018年の映画『響 -HIBIKI-』で演じた「田中康平」役では、斜に構えたいけすかないところがある青年のようで、一皮むけば「脆くも情けない」一面も完璧に表現しています。

 そんな柳楽さんが『ガンニバル』と『夏目アラタの結婚』で続けて体現してみせた、狂気的でもある危うさと同居する、まともな正義感……。それは本人のルックスだけでなく、柳楽さんその人が放つ魅力はもちろん、単純な威圧感や怖さといった印象を増したり、はたまた覆したりしてしまうほどの、演技力のたまものでしょう。

黒島結菜の「歯」もすごい

 さらに、『夏目アラタの結婚』でもうひとつ注目するべきは死刑囚「品川真珠」役の黒島結菜さんでしょう。彼女は殺人を犯した疑いのみならず、時には支離滅裂にも思える言動をする人物で、普通は距離を感じさせるどころか、嫌悪感に満ち満ちてもおかしくない役柄のはずです。

 しかし、黒島さん本人が放つ「それだけではない」哀れさがどこかに見えますし、恐ろしいはずの笑顔はどこかキュートにすら思えるほどでした。俳優としてのイメージを損ねてしまいかねない、原作の「ガタガタの歯」を妥協せずに再現したことも強いインパクトがありましたし、それは物語上でもとても重要だと思えます。

 強烈なビジュアルもあって内面が読みにくく「底知れなさ」も感じさせる黒島さんと、相対する要素を持つ柳楽さんのふたりが、面会室のアクリル越しでぶつかり合う「演技対決」も本作の大きな見どころでしょう。

 ちなみに、劇中では佐藤二朗さんが演じる、「いかにも佐藤二朗らしい演技」をした、うさんくさい「傍聴マニア」の男も登場します。彼に対してへきえきとしてしまうものの、それを完全には拒まない柳楽さんも、また魅力的に映りました。そんな「人間臭さ」もマシマシの柳楽さんに期待して、観てみてください。