日本代表は9月5日、北中米ワールドカップ・アジア最終予選で中国と埼玉スタジアム2002で対戦し、7-0で快勝。万にひとつも、日本が4年前に続き敗戦スタートを繰り返す可能性はなかった。
CKで中国のマンマークを逆手に取った日本は、12分に早々と均衡を破ったので、そこで筋書きは決まった。
日本は大半の時間で10人のフィールドプレイヤーが相手陣に侵入してボールを動かし、ゴールに直結する仕上げのパス以外はミスもないので、中国は反撃の糸口も探りようがなかった。片側のゴール裏半分程度を占めた中国サポーターは熱狂的だったが、前半で最も盛り上がったのは右SBのヤン・ゼーシャンが俊足の三笘薫より一足速くルーズボールに反応し、大きくクリアした時だったかもしれない。
段違いの経験値を持つ日本の選手たちは、技術で上回るだけではなく、ゲームの勘所を押さえ駆け引きにも長けていた。中国の倍以上のファウルをしているが、それは厳しいカウンターディフェンスの証で、失ったボールは厳しい寄せで即座に回収し続けた。
対照的に中国は、どこでどんな選択をするべきかリテラシーが不足し、3枚の警告を受けている。日本の仕掛けのパスに必死に対応していたのは、主にイングランドからの帰化選手ジャン・グアンタイだったが、寸断はできても狙いのあるボールは蹴れなかったのでカウンターも構築できない。日本はほとんど自陣に戻ることなくセカンドボールを拾うことに成功していた。
【画像】日本代表の中国戦出場16選手&監督の採点・寸評を一挙紹介。5人が最高評価の7点。MOMは3点に関与した20番
3バックの日本は滅多に守備機会が訪れなかったこともあり、左WBの三笘は攻め残り、最終ラインに5人が膨れることもなく、セリエAに出世した鈴木彩艶の成長を確認するセーブシーンも見られなかった。
逆に技術で見劣りする中国は、せっかく右SBから左ワイドまで斜めのサイドチェンジに成功しても、頼みの10番(シュウ・ハオヤン)が胸で大きく弾ませて堂安律に易々とボールを明け渡す。後半開始早々にはGKワン・ダーレイのフィードが逸れ、受けたジュー・チュンジェも態勢が悪く相手に寄せられたので、苦し紛れのヒールで久保建英の足もとに逃げる素人顔負けの無責任な珍プレーまで飛び出した。
この状況では、さすがに過去3か国の代表を率いて日本に分の良い成績を残してきたブランコ・イバンコビッチ監督も成す術がなかった。後半からは5バックに変更したものの、前半に守備で奔走させられた選手たちの体力や集中力が失われていくのは自明の理で、日本の前半以上のゴールラッシュの流れは容易に想像ができた。
それにしてもパリ五輪で米国と並ぶ40個の金メダルを獲得したスポーツ大国中国にとって、習近平主席が肝煎りで強化を促すサッカーは比類ない頭痛の種だろう。
例えば世界一の競技人口を誇る卓球では、全5種目で金メダルを独占しただけではなく、中国生まれの選手たちが各国に散らばり活躍しているが、サッカーは逆に3人の帰化選手の助けを借りながらも効果が見えてこない。パリ五輪で開催された全32競技のうち23競技でメダルを獲得し、約14億の国民の中には無数のスポーツエリートが存在するのに、サッカーにだけは中国式のエリート教育が通用していない。
確かに団体球技のメダルは女子ホッケーだけだが、バレーやバスケットなどは少なくともアジア内ではリーダー格にあり、大陸内でも落ちこぼれている種目は男子サッカー以外に見当たらない。国が巨大過ぎてリクルートし切れないという説もあるが、しっかりとリーグ戦も整った国でここまでタレントが生まれてこないのは、やはり育成方法に問題があるとしか思えない。
Jリーグ開幕の6年前に、日本は雨の国立で中国に0-2で敗れてソウル五輪出場を逃した。だが日本にもプロリーグができて、今回の中国戦ではピッチに立った15人中で、アカデミーで育った選手が10人を占めた。プラスマイナスで9ゴールの大逆転劇には、両国の30年余りの取り組みの相違が詰まっていたはずである。
文●加部究(スポーツライター)
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