遠藤航に花道を用意、先制シーンで“助演賞”だった町田浩樹の秀逸さ。完璧な中国戦でひとつだけ懸念を挙げるなら?

 日本代表は9月5日、埼玉スタジアムで行なわれたワールドカップ・アジア最終予選の初戦で中国に7-0で大勝した。

 過去2大会、日本の最終予選は黒星スタートであったこと。さらに同日のアジア各地では、オーストラリアやカタールが敗れたり、韓国やサウジアラビアが引き分けたりと、大波乱の予選開始であったのを踏まえれば、日本は危なげなく最高のスタートを切ったと言える。

 布陣を見ると、日本は3-4-3。オフェンス時は三笘薫と堂安律がサイドで高い位置をとり、3-2-5になる。

 一方の中国は、4-4-2。ゾーンを狭く絞って日本のパス回しをワンサイドに追い込み、2トップを起点としたカウンターを狙う。ボールが収まったらサイドを走らせ、一気にスペースを攻め落としていく。

 中国の監督は3年前の最終予選でオマーンを率い、初戦で日本を1-0で破ったブランコ・イバンコビッチだ。当時のオマーンはダイヤモンド型の4-4-2だったので、今回は形が少し違うが、戦略的な目標は変わらない。ゾーンを絞ってワンサイドに追い込み、2トップ起点のカウンター。彼のチームだった。

 序盤は中国の狙いが出ていた。真ん中を絞ってサイドへパスを誘導し、三笘にボールが入ったら、サイドハーフとサイドバックが段をつけてダブルマーク。ドリブル突破を牽制する。

 上田綺世の強引なターンや、三笘や久保建英の抜かずに蹴る内巻きのクロスから、日本は幾度かチャンスを作ったが、中国の対応は割り切っていた。ボールに寄せ切れなくても、背後のスペース、間のスペースを消すことが最優先。一番危険な部分、つまり守備ラインがひっくり返される事態を徹底して避けようとした。
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 日本としては、守備を固める相手のペースにはまりたくない。終盤までズルズルと0-0を引きずった後、最後にシンプルなクロスで失点し、0-1で敗戦。森保一監督の脳裏には、3年前の記憶もあったはずだ。だからこそ、12分に策を講じたセットプレーで先制に成功し、早々と苦い記憶を払拭したことが、この試合を快勝へと導いた。

 精度の高いコーナーキックを蹴った久保、それをヘディングで沈めた遠藤航は、この先制シーンの主役だが、周りの助演も効いていた。全員で相手をブロックし、遠藤に花道を差し上げる。特に秀逸だったのは、町田浩樹だ。ニアサイドへ走り込む遠藤のマーカーの進路を、まるで通行人Aかのように塞いだ。

 今季のJリーグでも何度か起きているが、セットプレー時のマーカーブロックは、ボールを見ないで相手に向かったり、正面からぶつかったりすると、VARチェックによりファウルで得点を取り消される可能性が高い。

 だからこそ町田は遠藤のマーカーを、肩口から後ろに目を向けて確認し、背中でブロックした。さらに直後、さもボールにプレーしている最中の出来事かのごとく、ボールの落下地点へ向かう。一連の町田の動きは非常に自然であり、意図的なブロックと認める証拠がない。

 遠藤がゴール、久保がアシスト。そして、通行人Aによるブロックを演じた町田は助演賞だった。
 
 このゴールで一気に楽になった日本は、落ち着いてゲームを支配した。30分過ぎからは、中国の足が目に見えて鈍り始め、生命線であるサイドへのスライドが効かなくなってきた。三笘へのダブルマークが外れたり、町田や板倉滉から斜めのパスコースが見えるようになったりと、チャンスの濃度が高くなってきた。すると、前半の終わり間際、堂安のクロスから三笘がヘディングを決めて2点目を奪う。

 日本のゲームコントロールで体力を奪われ、4-4-2のワンサイド圧縮プランが破綻した中国は、後半から5-3-2に変更。サイドへのアプローチは改善されたが、それによってハーフレーンを狙っていた南野拓実がスペースを得るようになり、3点目、4点目をゲット。中国の修正に対し、新たに生じた穴を素早く突いた日本は、次々と得点を重ね、7-0とリードを広げて試合を終えた。
 
 あまりにも完璧で、今後の気の緩みが心配になるほどの大勝だったので、ひとつだけ懸念を挙げておきたい。

 中国の唯一のシュート場面は、22分だった。GKのフリーキックから、FWジャン・ユーニンが巧みにトラップし、シュートへ。枠を大きく外れたが、危険なシーンになっていた可能性は否定できない。

 この場面はロングボールの競り合いに対し、谷口彰悟がかぶり、ボールを後ろに逸らしたのがきっかけだった。対戦相手のスカウティングにおいては当然、ポイントに挙がるのではないか。

 次は初戦でオーストラリアを破る快挙を果たしたバーレーンと、中東アウェーで対決だ。難しい試合になりそうなので、中国戦の大勝は一旦忘れ、注意されたし。

取材・文●清水英斗(サッカーライター)

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